第109章:私と真雪は11年の付き合いだ

彼女は久保清森の前まで歩み寄り、顔に淡い笑みを浮かべた。「あら、清森、どうしてここに?」

「今日帰国すると聞いたから、特別に迎えに来たんだ。おかえり」そう言いながら、彼は抱えていた艶やかな花束を古川真雪に差し出した。

真雪は彼が差し出したシャンパンローズを見つめ、手を伸ばそうとした瞬間、別の手が彼女より早く動いた。

彼女の隣に立っていた藤野旭が花束を受け取り、軽く香りを嗅いでから顔を上げ、真雪に温かな笑顔を向けた。「真雪、君の好きなシャンパンローズだね」

花束が藤野のものになった瞬間、清森の笑顔は一瞬で凍りついた。整った眉間に薄く冷たい色が差した。

彼は藤野を横目で一瞥してから、視線を真雪に戻し、穏やかな声で尋ねた。「真雪、この方は?」

「正式に紹介するわ。こちらは私が中国から高額で招いたトップシェフで、レストランの料理長を務める藤野旭よ。藤野、こちらは私のパートナー、久保清森」

真雪のあまりにも簡素な紹介に、藤野は不満げな表情を浮かべた。彼は元々真雪の腕に手を回していたが、今度は彼女の肩に手を置き、少し力を入れて彼女を自分の胸元に引き寄せた。

彼は非常に熱心に清森に向かって明るい笑顔を見せ、続けて言った。「僕はさらに真雪の長年の親友でもあるんだ!僕たちの仲はとても良いんだよ!」

「そうなの?」清森は無関心そうに問い返した。彼の穏やかな視線は素早く藤野の、真雪の肩を抱く手に移り、そしてゆっくりと藤野の顔に戻った。

そして口を開いた。「僕は真雪と十一年の付き合いだけど、君のことは一度も聞いたことがないな」

一見穏やかなその一言の中には、挑戦と皮肉が隠されていた。

藤野は口をとがらせ、隣で黙っている真雪を見下ろし、不満げに文句を言った。「ちぇっ、真雪は本当に薄情だね。大学時代はそんなじゃなかったのに、僕の親友だってあちこちで自慢してたじゃないか」

この言葉は真雪に向けられているように聞こえたが、実際は清森に対して、彼と真雪の間には長年の友情があることを強調していたのだ。

二人のくだらない会話に、真雪は思わず目を回した。彼女は少し得意げな様子の藤野を横目で見て、そして対面に立つ平然とした表情の清森を見た。

「迎えに来てくれてありがとう。でも、もう友達と夕食の約束をしているの」