第135章:長すぎて、もう覚えていない

久保清森は目の前の盛り合わせから刺身を取り、古川真雪の前に移した。「君の好きなホタテとマグロだよ」

「うん、ありがとう」

藤野旭は彼のそんな些細な仕草を横目で見て、唇の端にふと意味深な微笑みを浮かべた……本当に独占欲なのだろうか?

食事の間、三人はほとんど口を開かず、静かに食べていた。雰囲気は温かく和やかだった。

夕食後、藤野は食器とテーブルの片付けを手伝った後、真雪に別れを告げた。帰る前に忘れずに言い添えた。「今夜は雪が降るそうだよ。明日は気温が下がるから、外出するなら暖かくしてね」

真雪はうなずいた。「わかったわ。早く帰りなさい。気をつけてね。あなたも暖かくして。何か必要なことがあったら、いつでも電話してね」

出かけようとしていた藤野は真雪の言葉を聞いて、足を止めた。振り返って明るく笑いながら彼女に言った。「ハウスキーパーがしっかりしてるから、君は必要ないよ」

真雪は思わず笑みを漏らし、手を振って、わざと不機嫌そうに彼に早く帰るよう促した。

藤野が去った後、清森は唐田浩良からの電話を受けた。浩良が何を言ったのかは分からないが、電話を切ると彼も帰ることになった。

真雪はうなずき、玄関まで見送りながら忘れずに言った。「ブルースをよろしくお願いね」

「もちろんだよ」ドアの外に立った清森は言うと、無意識に手を伸ばして優しく真雪の頭を撫でた。「十年前に『ローマの休日』を見た後、君が僕に言ったことを覚えてる?」

真雪は呆然として軽くまばたきした。長くカールした睫毛が蝶の羽のようにわずかに震え、その下の星のように輝く瞳に一瞬驚きの色が走った。

彼女は清森の視線を避け、首を振った。「随分昔のことだから、もう覚えてないわ」

清森は彼女が嘘をついていることを見抜いたが、指摘はしなかった。彼は両手を真雪の肩に置いた。

真雪は思わず顔を上げて彼を見つめた。彼の澄んだ瞳は銀河の星のように人の目を奪い、自分を見つめる時、その奥底には心を動かす優しさが流れていた。

彼は薄い唇を開いた。「じゃあ、思い出させてあげるよ」

少し間を置いて、彼は続けた。「真雪、僕は君が好きだ」

たった六文字の言葉だが、そこには計り知れない深い感情が込められていた。誠実で真摯なその告白。

十年の時を経て、二人は役割を入れ替えたようだった。告白する側が告白される側になっていた。