第044章:見た目は久保会長より劣る

久保清森の深い愛情を込めた呼びかけが、古川真雪の心の琴線に触れた。酔った夜の光景が映画のシーンのように再び頭の中に浮かんできた。

彼女は慌てて目を伏せ、清森の言葉を遮った。「何か用?私これから約束があるから、なければ先に失礼するわ」

そう言うと、自分の動揺を隠すために、わざと手首を上げて時間を確認した。

彼女が気づかなかったのは、清森が彼女を見つめる漆黒の瞳の中に、少しずつ広がる悪戯っぽい笑みがあったことだ。

「誰と約束してるの?」

真雪は驚いて清森を一瞥した。彼が自分の約束相手に興味を示すことが新鮮に感じられた。

彼女は再び手首を上げて時間を確認し、眉間にはやや苛立ちの色が見えたが、それでも素直に答えた。「曾田綺茜よ」

「へぇ?君たちが友達だったとは知らなかったな」

「あなたの知らないことなんて山ほどあるわ。用がなければ先に行くわね」

言い終わるや否や、彼女はハンドバッグと書類入れを手に取って立ち上がり、清森を見ることもなくハイヒールを鳴らして去っていった。

真雪がドアを開けようと手を伸ばした時、一人掛けソファに座っていた清森の唇に賢い笑みが浮かび、彼は突然口を開いた。「そういえば、真雪、あの夜は……」

真雪はドアノブに手が届く前に、素早く振り返って清森の続く言葉を遮り、反射的に弁解し始めた。「あの夜は私、酔っぱらってたから、後で何があったか覚えてないわ。もしあの夜のことについて何か作り話をするつもりなら、その労力は無駄よ」

ソファに座っていた清森は、真雪の息つく間もない一連の言葉を聞いて、明らかに一瞬戸惑った様子を見せた。

言い放った真雪も自分の反応が過剰だったことに気づき、恥ずかしさを隠すために、手を伸ばして耳元の長い髪をかき上げ、続けた。「他に何かあるの?」

「僕が言いたかったのは、君が僕と一緒に帰った夜のこと。母さんに来月15日にまた家に来ると約束したじゃないか?」

清森の説明は少し無邪気に聞こえ、真雪はその言葉を聞いてますます窮屈な気持ちになった。

彼女は「また今度ね」と答えた。

そして再び振り返り、ドアノブを回して急いで立ち去った。

一人掛けソファに座ったままの清森は、口元に広がる輝かしい笑みを抑えることができなかった。

その深い瞳には珍しく純真さと、かすかな悪意が浮かんでいた。