第215章

久保清森は少し頭を下げ、古川真雪とほとんど鼻と鼻がくっつくほどの距離になった。

真雪は彼の暖かい息が頬を軽く撫でるのを感じた。まるで桜が満開の季節に舞い散る花びらが、一枚一枚彼女の頬に落ちてくるかのようだった。

彼女の潤んだ瞳は澄み切って透き通っており、清森はその中に自分の姿をはっきりと見ることができた。

長年彼に寄せる恋心は、すでに彼女にある習慣を身につけさせていた。彼を見つめる時の真剣で集中した習慣を。

「真雪、君のあの人を惹きつける桃花眼が本当に好きだよ」

褒め言葉は真剣かつ慎重で、疑いようのない誠実さと優しさを含んでいた。

エレベーター内の温度が少しずつ上昇しているようで、真雪の頬は徐々に赤くなり、瞳の奥には彼の言葉によって生まれた恥じらいが揺れていた。

ディン。

エレベーターが15階に到着し、ドアがゆっくりと開いた。

次の瞬間、二人の耳に驚愕の声が届いた。「おやおや、なんてことだ。いったい何を見てしまったんだ。世も末だ、道徳が崩壊しているぞ！」

二人を包み込んでいた曖昧な雰囲気は、エレベーターの外からの驚きの声によって一瞬で崩れ去った。

真雪と清森は気まずそうに視線を交わし、清森は壁に置いていた手を下ろし、ゆっくりとエレベーターの外に立っている隣人、60歳の大谷さんの方を向いて挨拶した。「大谷さん、お久しぶりです」

大谷さんは鼻にかけた老眼鏡を押し上げ、中に立っている人を見てようやく納得したように頷いた。「ああ、清森くんと真雪さんか」

清森と真雪はエレベーターから出ながら尋ねた。「ご無沙汰しております。大谷さんとお連れ合いはお元気ですか？」

大谷さんは爽やかに笑い、頷いた。「まあまあだよ」

そして突然、顔から笑みを消し、真剣かつ厳格な表情で向かい合って立つ二人を見つめた。

「言っておくが、若い二人は愛し合いたいなら家でするべきだ。あと数分待てないわけじゃないだろう。こんな公共の場で甘い雰囲気を出すのは良くない。私が見たからまだいいものの、もし他の子供たちが見たらどれほど恥ずかしいことか。そうだろう？」

60代の大谷さんは大学の歴史教授で、常に伝統的で保守的な考えを持っており、二人が公共の場で親密な行動をとることを当然ながら不適切だと感じていた。

「はい、おっしゃる通りです」清森は謙虚に教えを受ける顔で頷いた。