彼は急いで手を古川真雪の額に当て、彼女の額から伝わる熱さに眉をひそめずにはいられなかった。
「唐田秘書、ここから賀成市までどのくらいかかる?」
「一時間半です」
「ここから一番近い町は?」
「十分ほどの距離に小さな町があります」
「まずはその町で病院を探そう」
「はい」
久保清森の口調はとても厳しく、唐田浩良も真雪がかなり熱が高いのだろうと察し、アクセルを踏む力を強めた。車は道路を猛スピードで走り抜けていった。
「水を一本渡してくれ」
「はい」
清森は唐田が渡した水を受け取り、スーツの胸ポケットに飾りとして挿していたポケットチーフを取り出した。
彼はポケットチーフを折りたたみ、少し水で湿らせてから、冷たいポケットチーフを真雪の額に当てた。
突然額に感じた冷たさに真雪は少し驚き、目を細く開けて、横に座っている清森の心配そうな表情をちらりと見た。
なぜか彼をからかいたくなり、「心配しないで、死にはしないわ」と言った。
「……外出先でも自分の体調管理くらいできないものか」
彼の諦めたような叱責に真雪は口元を緩め、目を閉じながら小声で答えた。「そろそろ私の世話をしてくれる若い男でも囲う時期かしら」
清森は病気で力もないはずなのに、それでも自分と言い争おうとする真雪を呆れた目で見つめ、不機嫌そうに答えた。「おとなしく休んでいろ、喋るな」
真雪は軽く唇を曲げ、素直に黙った。
車は十数分走った後、近くの小さな町に到着した。土地勘がないため、車はしばらく回り続けたが病院が見つからず、最後は道端のおばさんに教えてもらって、ようやくクリニックを見つけた。
クリニックの医者は年配の男性で、真雪の体温を調べた後、清森を責めずにはいられなかった。「君ねえ、奥さんがこんなに熱が出てるのに今頃連れてくるなんて、このまま熱が続いたら頭がおかしくなるところだったよ」
清森はどうやら老医師の口から出た「奥さん」という言葉が特に気に入ったようで、叱られている自覚は全くなく、穏やかで謙虚な笑みを浮かべて答えた。「私が悪うございました。どうか妻に薬を処方していただけますか」
真雪:「……!」
「ったく、この喉の腫れ方はひどすぎるな」
真雪:「……!」