古川真雪は慎重に手に持っていた牛革の紙袋をテーブルの上に置き、音を立てないようにしてから、久保清森のデスクへと歩み寄った。
彼はデスクに静かに座り、全身から冷たく高貴な雰囲気を漂わせていた。整った顔立ちは清潔で鋭く、漆黒の瞳は底知れぬ谷のように深く、眉目には静謐さが宿っていた。
この男性は、ただそこに静かに座っているだけでも、まるで一枚の絵画のように美しく、見る者の心を和ませた。
「久保会長」
彼女は彼のデスクの前に立ち、一つのデスクを挟んで彼を見つめ、唇の端に浮かぶ笑みは湖面の波紋のように柔らかだった。
聞き慣れた声に、清森は少し驚いて顔を上げ、不意に真雪の艶やかな桃花眼と目が合った。
一瞬で、彼の眉目に宿っていた冷たさが温かさに変わり、彼は徐々に口角を上げ、まるで夏の午後の日差しのように明るく輝く笑顔を見せた。
「真雪、どうしたの?」彼の磁性のある声には驚きの色が混じっていた。
真雪は唇に不敵な笑みを浮かべ、眉を少し上げて言った。「奇襲をかけて、浮気現場を押さえられるかと思って」
清森は理解したように頷き、怠惰な姿勢で眉を少し上げた。「なるほど、君はちょっとアダルトな場面が見たいんだね。今すぐ実演してあげることもできるよ」
そう言いながら立ち上がり、余裕を持って真雪の前まで歩み寄った。
真雪は彼の悪戯っぽい笑みを浮かべた黒い瞳から、彼が次に何をしようとしているのか察し、すぐに一歩後ろに下がった。清森が本当に何か不適切なことをするのを防ぐためだった。
「やめてよ」真雪は苦笑いしながら彼を制し、先ほど自分がテーブルに置いた牛革の紙袋を指さした。「白川おばさんがあなたにお昼を届けるように言ったの」
清森は少し前に歩み寄り、手を伸ばして愛情たっぷりに真雪の頭を撫でた。「ありがとう、お疲れ様。もう食べた?」
真雪は自分の頭に置かれた彼の手を払いのけ、首を振った。「まだよ」
「じゃあ、一緒に食べよう」
「うん」
彼は優しく真雪の手を取り、テーブル前のソファに座らせ、牛革の紙袋から白川悠芸が心を込めて準備した昼食を一つずつ取り出した。
「そうだ、明日の夜、湯川ホールディングスの社長の結婚式に一緒に来てくれない?」
湯川ホールディングスと叢雲産業グループは取引関係があるだけでなく、清森はプライベートでもその会社の社長と友人関係にあった。