第298章：仕事より君とのデートが大事

上野然久が彼女の意図的な誤魔化しを聞き取れないはずがなかった。彼は笑って言った。「清森は本当に君に甘いんだな」

古川真雪はこれ以上彼と駆け引きするつもりはなかった。「他に重要な用件がなければ、私はこれで失礼します」

彼女が上野から逃れて会議室を出ようとした時、上野は突然彼女の手を掴んだ。

真雪は眉をひそめ、嫌悪感を露わにして彼の手を振り払った。

上野は彼女の顔に浮かぶ嫌悪感に気づかないふりをして笑った。「君がそんなに夏目宣予を目障りに思うなら、叔父さんから彼女を対処する方法を教えてあげようか」

真雪は冷たく笑い、眉間に鋭い色が浮かんだ。彼女は赤い唇を開いて言った。「あなたが生まれてこなかったお孫さんや泰介君の彼女を対処したように、ですか？」

上野の息子はかつてナイトクラブで働く女性と関係を持ち、偶然にも子供ができてしまった。

彼はもちろん、そのような経歴の女性が自分の息子の子を産むことを受け入れられず、手を回してその女性に流産させたのだった。

真雪の言葉に上野の笑顔も冷え込み、彼女を見つめる目に鋭い光が宿った。

真雪は冷笑し、これ以上時間を無駄にせず、足早に会議室を後にした。

唐田浩良は会議室の外で真雪を待っていた。彼女が出てくるのを見て、敬意を込めて言った。「古川様、会長がオフィスにお呼びです」

真雪はうなずき、唇に微かな笑みを浮かべた。「彼の古い愛人との契約解除を提案した私を、個人的に叱りつけるつもりかしら？」

彼女の皮肉な言葉に浩良は口元を引き締めて笑いをこらえた。「会長は恐らく、あなたと一緒にお祝いしたいのではないでしょうか」

真雪は赤い唇を少し曲げ、今日の会議で最終的に承認された提案に満足していた。

宣予は注目を集めるのが好きなのだから、芸能事務所との契約解除のニュースで、しばらくは十分な注目を浴びることになるだろう。

ただ、話題の熱が冷めた後どうなるかは、わからない。

久保清森のオフィスのドアに着くと、浩良は気遣い深く彼女のためにドアを開け、彼女が中に入った後、ドアを閉めた。

ドアが開く音を聞いて、清森は顔を上げ、薄い唇の端に思わず甘やかすような笑みが浮かんだ。

「久保会長は私に何か御用でしょうか？」

真雪は清森のデスクの向かいの椅子に座り、少し気のない笑顔を浮かべた。

「ただ古川取締役に会いたかっただけだよ」