会議が終わった後、上野社長はすぐに夏目宣予に電話をかけた。
その時、宣予は新刊の宣伝に向かう途中だった。上野社長から戻ってくるよう言われたが、彼女は断り、宣伝が終わってから戻ると告げた。
普段なら、宣予の反抗に対して上野社長は激怒していただろうが、今日は異常なほど冷静だった。これに宣予は少し好奇心を抱いたが、深く考えることもなく、電話を切って新刊の宣伝に向かった。
宣伝が終わるまで、マネージャーが難しい表情で彼女の側に来て耳打ちするまで、宣予は上野社長が今日異常なほど冷静だった理由を知らなかった。
彼女は急いで会社に戻ったが、その時には上野社長はすでに契約解除書を用意して彼女を待っていた。
彼女が勢いよく自分のオフィスに飛び込んでくるのを見て、上野社長は淡々と微笑んだ。「宣伝は終わったかい?さあ、座りなさい」
そう言って、片側の一人掛けソファを指さした。
宣予は一人掛けソファに座り、目の前のテーブルに置かれた契約解除書に目を落とした。
以前、彼女が前の会社と契約を解除した時、叢雲エンタメが彼女の代わりに違約金100万円を支払った。
その後、彼女が叢雲エンタメと契約を結んだ時、5年契約を結び、契約書には5年以内に宣予が契約を破棄した場合、叢雲エンタメに200万円(以前彼女のために支払った100万円に加えて新たな違約金100万円)を賠償すること、叢雲エンタメが契約を破棄した場合、宣予に違約金を支払う必要がない(以前宣予のために100万円の違約金を支払ったため)と明確に記載されていた。
だから今日、叢雲エンタメが宣予との契約を解除すれば、宣予は一銭も得られないことになる。
「さっきもう知らせを受けたと思うから、遠回しな言い方はしないよ。取締役会であなたとの契約解除の提案が全会一致で可決されたんだ」
上野社長の声には同情の色が混じっていた。この数年間、会社は宣予を一躍有名にし、彼女が雲の上で浮かれていた時に、突然雲の上から蹴落とされたのだ。
「い…いいえ、そんなはずはありません。清森さんは同意しないはずです」
宣予は目の前の契約解除書を見つめながら、上野社長の言葉を信じられないと首を振った。
「会長も賛成票を投じたよ」
しかし上野社長の言葉は鋭い刃物のように、宣予の胸に突き刺さった。
「いいえ、私は契約解除に同意しません」