第284章:たとえ魚が水をやめても

この頃、古川真雪はレストランに行くこともなく、外出もめったにせず、ほとんどの時間を家で過ごしていた。日向ぼっこをしたり本を読んだりして、小さな日々を心地よく過ごしていた。

久保清森がSNSに投稿した翌朝、真雪は急なインターホンの音で目を覚ました。

彼女はイライラしながら布団を蹴り、ベッドサイドテーブルのタブレットを手に取ってモニターを確認すると、ドアをノックした人が立ち去ろうとしているところだった。

その人物は野球帽をかぶり、マスクをしていたため、顔の特徴はまったく見えなかった。

彼が去っていくにつれ、その姿はモニターから消えていった。真雪はそのとき初めて、先ほどドアをノックした男性が彼女の家の玄関に小さな箱を置いていったことに気づいた。

配送会社かな?でもそれはありえない、普通宅配便は警備室に預けられるはずだ。

真雪は心の中でつぶやきながらも、好奇心を抑えきれず、裸足のまま階下に降りてドアを開け、相手が残していった小さな箱を持って家に入った。

箱は小さく、軽かった。受取人や送り主の情報はなかった。

「もしかして敵が送ってきた爆弾?」

彼女は独り言を言いながら、はさみを取って箱のテープを切り、それから箱を開けた。

箱の上層には緩衝材のエアクッションが入っていた。真雪は手を伸ばしてすべてのエアクッションを取り出すと、その下に保護されていたのは一冊の本だった。

真雪は手を伸ばして本を取り出した。タイトルは『たとえ魚が水をやめても』、著者は……夏目宣予。

彼女は前回、吉田語春が賀成市に来たとき、宣予が出版社と契約した本について言及していたことを思い出した。おそらく彼女が手にしているこの小説のことを言っていたのだろう。

ただ……彼女は宣予や出版社がこの本を宣伝しているのを見たことがなかった。この本はまだ発売されていないのだろうか?そして、誰が彼女にこの本を送ってきたのだろう?

真雪は眉をひそめながら、小説の表紙をじっくりと見つめた。帯には小説の紹介文が書かれていた……

「たとえ魚が水をやめても、私はあなたをやめられない。」

「トップモデル夏目宣予が心を込めて描く、心揺さぶるラブストーリー。」

真雪は本を裏返した。小説の裏表紙にはこの本のあらすじが印刷されていた……