久保清森は夏目宣予が自分を訪ねてくることを予想していたので、あらかじめ唐田浩良に通知を出し、彼女が来たら止めずに直接自分に会わせるようにしていた。
一晩中眠れなかった宣予はとても憔悴しているように見えた。彼女が清森のオフィスに飛び込んできたとき、浩良は清森に重要な事項を報告しているところだった。
彼女の突然の侵入で二人の会話は中断された。宣予は顔からサングラスとマスクを外し、化粧っ気のない青白い小さな顔を見せた。
彼女は浩良を一瞥し、落ち着いた口調で言った。「唐田秘書、少し席を外していただけませんか?清森に話したいことがあるんです。」
浩良はまだその場に立ったまま、問いかけるように清森の方を見た。
「いいえ、そのまま要点だけ話してください。私はこの後、重要な会議に出席しなければなりません。」
宣予は知っていた。前回レストランで自分が記者を買収して彼との「キス」写真を盗撮して以来、彼は自分を警戒するようになったことを。
だから彼の返答は彼女の心を冷たくさせたが、予想通りでもあった。
宣予は唇を噛み締め、ようやく一日中自分の頭から離れなかった質問を口にした。「清森はなぜ古川真雪を甘やかして、私との契約を解除するのですか?」
「これは取締役会での投票結果です。」清森の言葉には温もりがなかった。彼は遠回しな言い方をせず、直接答えを出した。
「もし清森が賛成しなければ、取締役会の他の取締役たちも賛成しないはずです。」
「どうしても理由が欲しいなら、それは私が真雪を愛しているからだ。」
彼が古川真雪を愛しているから、彼女のわがままな要求すべてを許容できるのだ。
たとえその要求の一つが夏目宣予を蹴落とすことであっても、彼は甘んじて受け入れるだろう。
この結果は宣予にとって残酷かもしれないが、結局のところ、最初から自分を過大評価し、あれほど気まぐれな態度をとった彼女自身の責任でしかなかった。
清森の答えは毒を塗られた鋭い矢のようで、素早く弦を離れ、宣予の胸に直撃した。
彼女は苦痛の表情で尋ねた。「では、私はどうなるのですか?」
「十年前に答えは伝えたはずだ。」
十年前、白川悠芸に会った後、清森は再び宣予と会う約束をした。