鎌田敬賢は二人がよくボランティアに行っていた福祉施設で中村暖月を見つけた。彼女は軒下で体を丸めて泣いていて、大雨で全身が濡れていた。
鎌田敬賢は彼女の前に立ち、傘で彼女の小さな体を覆い、そして彼女の名前を呼んだ。
暖月はゆっくりと顔を上げ、涙でいっぱいの目で心配そうな敬賢を見つめた。
今日に至るまで、敬賢は彼女が当時自分を見上げた時の、あの万事休すという絶望と恐怖、途方に暮れた表情をはっきりと覚えている。
敬賢は暖月を家に送ろうとしたが、彼女に拒否された。仕方なく、運転手にホテルを探させ、暖月にまずシャワーを浴びて清潔な服に着替えさせた。
敬賢はホテルの1階にあるカフェで暖月を待っていた。1時間後、ようやく彼女が現れた。
暖月は2000元を借りたいと言った。夏休みにアルバイトをして返すと約束した。
敬賢は暖月の様子がおかしいと感じ、何度も問いただした結果、暖月はついに全てを打ち明けた。
彼女は血のつながりのない兄、中村昭維に暴行され、妊娠してしまったのだ。彼女は子供を堕ろしたいと思っていた。なぜなら、昭維が彼女の妊娠を知ったら、どれほど狂ったように彼女を監禁し、支配するか想像するのが怖かったからだ。
暖月の懇願に、敬賢はお金を貸した。彼女は家族に福東市へスケッチ旅行に行くと嘘をつき、実際は中絶と療養のために出かけたのだった。
高校に入ると、暖月は学校の寮に引っ越し、これで兄から逃れられると思ったが、昭維は相変わらず時々彼女を訪ねて嫌がらせをしてきた。それは彼が再び警察に逮捕され、刑務所に入るまで続いた。
暖月の夢は誰もが知るモデルになることだった。そのため大学2年の時、彼女はある芸能事務所と契約した。しかし、事務所は彼女を重要視せず、ほとんどの場合、接待の仕事ばかりで、イベントがあっても些細なものだった。
夢を実現したいという強い願望から、彼女は再び敬賢を頼り、助けを求めた。敬賢の地位と身分があれば、彼女を有名にすることは簡単だと信じていた。
事実、彼女は正しかった。敬賢は彼女をモデル界の頂点まで押し上げた。残念なことに、頂点で彼女は自分自身を見失ってしまった。"
久保清森は夏目宣予の小説『たとえ魚が水をやめても』の登場人物を通して、古川真雪に宣予の物語を語った。