じゃあ、あんたが行く?

その頃、他の二組のゲストは、すでにそれぞれの住居へと到着していた。

篠田姉妹は、見事、中庭付きの邸宅へと入居した。家の主人は二人を熱烈に歓迎し、昼食を共にしようと誘ってくれた。部屋も、彼女たちの到着前に綺麗に掃除が済まされているという、至れり尽くせりの待遇だ。

斎藤姉弟の平屋も、なかなかのものだった。小さな庭の畑には、たくさんの有機野菜が植えられている。リビングは広く、部屋は風通しが良く、家具も一通り揃っていた。

他の二組の恵まれた住環境を目の当たりにして、コメント欄は再び熱を帯びる。

【草。他の二組は、荷物さえ置けば即生活スタートで、食事の心配もなしか。それに比べて一樹のペア、掃除道具すらないとかwww】

【wwwwwwwwwwやっぱ、比べなきゃダメージはないってことだな】

【一樹、マジで疫病神かよ。残った三つの箱から、どうやったらピンポイントで最悪の一つを引き当てられるんだ!】

【疫病神のお帰りだぞー。箒とバケツ持って帰ってきた】

【てか、ウケるwww疫病神、意外と腕力あるじゃん。バケツ提げたまま、一度も休まず帰ってきやがった】

彼らの住む土壁の家は、隣家との間にそれなりの距離があった。何度も往復する手間を省くため、一樹は片手に箒とちりとり、もう片方の手にはずしりと重い水の入ったバケツを提げて、戻ってくるしかなかった。

この往復だけで、およそ十数分が経過している。

一樹が道具を借りに出かけている間、初もまた、手をこまねいていたわけではない。

彼女は長い髪をゴムで一つに束ねると、袖をまくり、使えそうな家具を運び出しては、適切な場所へと配置していく。

一樹が戻り次第、二人で大掃除に取り掛かるためだ。

三十分後。篠田姉妹の組は、すでに家の主人たちと昼食のテーブルを囲んでいた。斎藤姉弟は、隣家から食材を少し分けてもらい、自分たちで調理を始めている。

斎藤央は借りてきた食材を台所へ運び込むと、傍らに立つ姉の斎藤彩に言った。「姉さん、キッチンは油で汚れるから。料理は俺に任せて」

「大丈夫よ、私がやるわ」言うが早いか、彩はすでに袖をまくり、やる気満々だ。

「じゃあ、俺は助手に徹するよ」

「ええ、お願い」

口では助手と言っていた央だったが、いざ調理が始まると、実質的に彼がシェフだった。鍋や野菜を洗うのも彼がやり、彩は手伝おうにも、どこから手をつけていいか分からないほどだった。

昼食後、彩が食器を片付け、洗おうとした。だが、それよりも一歩早く、央がその食器を受け取ってしまう。

彩は、彼を見つめて言う。「ご飯はあなたが作ってくれたんだから、お皿洗いくらいは私にさせて」

央は彼女の綺麗なネイルに目をやり、優しく、そして丁寧に言った。「その綺麗な手で、洗い物なんてさせられないよ」

【央くん、カッコよすぎ……一瞬でハートを射抜かれた】

【羨ましい……同じスペックの弟が欲しいって、もう何回言ったか分からん】

【今の私、あの茶碗に転生したい】

【やめろ、私がそのスポンジだ】

同じ、その頃……

朝比奈初と長谷川一樹は、まだ作業に追われていた。鍋や食器類はすべて隣家からの借り物。薪や昼食の食材も同様だ。

薪割りという力仕事は、一樹がごく自然に引き受けた。

【このペア、ガチで悲惨。隣はもう食べ終わってるのに、こっちはまだ調理も始まってないとか】

【あの土壁の家、マジで何にもないんだな。全部、ご近所さんのお恵みじゃん】

【このペア、見ててじれったいな。見どころもないし、家に入ってからずっと掃除ばっか】

【てか、この二人って料理できんの?】

【義姉さんの方は、多分できるんじゃない? 包丁さばき、手慣れてる感じだったし】

だが、薪割りは、一樹が考えていたほど簡単なものではなかった。一振り目、斧は虚しく空を切った。二振り目、今度は刃が薪に食い込み、抜けなくなってしまった。しばらく格闘した末、ようやく斧を隙間から引きずり出す。

初は傍らで卵を溶きながら、ちらりと一樹の方へ視線を送る。彼がまだ一本の薪も割れていないことに気づいていた。

たかが数本の薪ごときに、ここまで手こずるとは。誰よりも焦っているのは、一樹本人だった。誰が好き好んで、他人の前で恥をかきたいものか。

もう一度試せば、感覚が掴めるかもしれない。そう思った、まさにその時。初が、唐突に声をかけた。「もっと力を入れたら?まさか、ご飯も食べてないわけ?」

一樹は、業界でも有名な癇癪持ちだ。その言葉を聞き、彼は即座に、そして不機嫌に言い返した。「飯食ってねえから、こうしてんだろうが!」

吐き捨てるように言うと同時に、彼は怒りを込めて斧を振り下ろした。ばきり、と音を立て、薪の半分ほどが割れて飛んだ。

「薪割りができないなら、小枝拾いくらいはできるでしょ?裏庭の雑木林、見えなかった?あれなら、かなりの量を拾ってこられるはずよ」

一樹は、勢いよく振り返った。初を睨みつけ、冷たく言い放つ。「……なんでそれを先に言わないんだよ」

おかげで、こんなところで半日も、気まずい薪割りショーを繰り広げる羽目になった。無駄な時間だった。

「あなたが薪を割れないなんて、一言も言ってないじゃない」

【wwwwwwwww いいぞ、もっとやれ!長谷川一樹がへこんでるの、最高の酒の肴だわ】

【てか、誰も薪割りしろなんて言ってなくね? 自分で勝手に始めて、できないからって義姉さんのせいにするなよ】

【義姉さん、聡明で美人なのに。一樹とじゃなければなあ】

【斎藤さんちの配信から来たけど、この役立たずの一樹、マジで見てらんない。薪も割れない足手まといとか、本気でぶん殴りたくなってきた】

【言うな。一樹なんて、央くんの足元にも及ばん】

長谷川一樹は斧を置くと、庭を出て、裏手の雑木林へと向かっていった。ほどなくして、彼は両腕に小枝の束を抱え、戻ってきた。

拾ってきた小枝を台所に運び込むと、初のそばで、しばらく所在なげに立ち尽くしている。そして、ためらいがちに口を開いた。「……何か、手伝うことはあるか?」

初は、彼を一瞥した。

「火、起こせる?」彼のその言葉は意外だったが、彼女は遠慮するような性格ではない。

一樹は一瞬、言葉に詰まった。そして、おずおずと答える。「……やってみるか?」

「いいわ、じゃあ、やってみて」

彼に経験がないことは分かっていた。だから初は、傍らで丁寧に手順を教える。一樹もまた、驚くほど素直だった。彼女が言ったことを、言われた通りにこなしていく。

二人の息はぴったりと合い、かまどの火はすぐさま勢いよく燃え上がった

初が作った料理は三品。トマトと卵の炒め物、レタスのさっと炒め、そしてピーマンと豚肉の炒め物だ。

彼らが昼食として借りられた食材はごくわずかで、そのほとんどが野菜だった。肉と卵は、親切な老婆が分けてくれたものだ。

——

長谷川邸

食事の時間になり、長谷川の母は末娘の長谷川千怜(はせがわ ちさと)を起こして食卓につかせた。

千怜は、いわゆる金の匙を咥えて生まれてきた子供だ。家族全員に蝶よ花よと育てられ、いつしか、授業をサボるのは当たり前、登校するかどうかは気分次第という、厄介な性分が身についていた。

千怜が、食事もろくに摂らず、スマートフォンばかりいじっている。それを見た母は、彼女を睨みつけ、不満げに言った。「ご飯中にスマホをいじるなと言ってるだろう」

「はいはい、分かってるってば」

だが、母の注意など、馬の耳に念仏だ。千怜は相変わらず、スマートフォンから目を離さない。

突然——

「うっそ!」千怜は叫ぶと同時に、握っていた箸をテーブルに叩きつけた。

その大げさな様子に、長谷川の母は心底呆れた顔をする。「いちいち大騒ぎして。お母さんを長生きさせたくないのかい?あんたのせいで心臓が止まるかと思ったわ」

千怜は母の腕を掴み、ぶんぶんと揺さぶる。その声は、興奮に上ずっていた「お母さん、お母さん!一樹お兄ちゃんが、バラエティに出てる!」

「バラエティに出たくらいで、何をそんなに大騒ぎしてるんだい」

「違うの……お兄ちゃんと一緒に出てるのが、誰だか知ってる!?」

母は、半信半疑で口を開いた。「カネダさん、だろ?」

朝、一樹からちらりとその名を聞いただけだった。詳しくは尋ねていない。だから、電話で聞こえたままの名前を口にしただけだ。

もちろん、長谷川の母とて、カネダさんが誰なのかは知らない。

千怜は、先ほど見つけたトレンド記事を開き、スマートフォンを母へと突きつけた。「これ、見て」

「……あの子?」母は、驚きの声を上げた。

カネダさん……義姉さん。

そういうことかい!

一樹は、普段、千怜を一番可愛がっていた。以前は何でも彼女に話してくれていたのに。彼が初と番組に出るなんて、自分は全く知らなかった。

一番信頼していた人間に裏切られたような気がして、千怜は腹立たしげに言った。「なんで一樹お兄ちゃんは、あの人と番組に出るのよ!」

母は、娘をちらりと見やった。その顔には、呆れの色が浮かんでいる。「じゃあ、あんたが行く?」