協調性ゼロ

朝食を受け取った後、みんなそれぞれ宿舎に戻った。

朝比奈初たちの土壁の家はかなり遠かったので、帰り道は他の人より時間がかかった。

長谷川一樹はうとうとしながらトイレに起きて、行き来する間に朝の冷たい風に出会い、その冷気で少し目が覚めた。

彼は朝比奈初の部屋の前を通りかかり、ドアが開いていることに気づいた。

長谷川一樹は足を止め、眉をしかめ、何気なく部屋の中を覗くと、朝比奈初が部屋にいないことに気づいた。

朝早くから、この女はどこに行ったんだ?

もしかして朝食を取りに行ったのか?

その可能性に、長谷川一樹は思い至った。昨夜の通達を思い出し、彼女は物資供給所へ向かったのだと、彼は当然のように結論づけた。

彼は部屋に戻って服を着替え、洗顔を済ませた後、静かに中庭に座った。

【お坊っちゃま、何してんの?このまま、ただ冷たい風に吹かれてるつもり?】

【クソワロタ。縁側で日向ぼっこしてる孤独な爺さんみたいだ】

【マジで分からん。なんで番組は、こいつの単独ショットをこんなに長く映すんだ?】

【マジうざい。ライブ配信に、早送り機能はないのかよ】

やがて、朝比奈初の姿が見えてくる。その瞬間、長谷川一樹の瞳に、自分でも気づかないほどの、かすかな喜びの色が浮かんだ。

一瞬、長谷川一樹は立ち上がり、門のところまで朝比奈初を迎えに行こうとした。その、ほんの小さな動きは、幸いにもカメラに捉えられてはいない。だが、彼女の帰りを待ちわびる、その必死な眼差しだけが、やけに目立っていた。

朝比奈初は両手を後ろに回し、ゆっくりと中庭に入ってきた。

長谷川一樹は顔を上げ、その視線を彼女の上に固定した。「……戻ったのか」

「ええ」

朝比奈初が彼のそばを通り過ぎようとした、その時。長谷川一樹は、彼女が背後に隠していた手元を、はっきりと見た。

彼女の両手は、空っぽだった。

何も持っていない。

長谷川一樹の眉間に、深い皺が刻まれる。その声は、氷のように冷たかった。「……朝飯は?」

朝比奈初は、彼を振り返った。そして、心底不思議そうに問い返す。「朝食?……何のことかしら」

次の瞬間、長谷川一樹の表情は崩れた。

彼は最初から間違っていたのかもしれない、彼女に期待を抱くべきではなかったのだ。

朝比奈初は彼を見つめ、彼の目に失望を見たようだった。彼女は軽く笑って言った。「まさかとは思うけど、私があなたの分の朝食まで、持ってくると思ってた?」

長谷川一樹は、答えなかった。その顔色は最悪で、まるで誰かに数億円の借金でも踏み倒されたかのようだった。

【wwwwwwwwwヤバい、さっきの卵の件に気を取られてたけど、今気づいたわ。朝比奈さん、マジで手ぶらじゃん】

【さすがは朝比奈。ついでに取れるものすら、取らないスタイル】

【クソワロタ。このペア、分担も相談も、連携もゼロじゃん。さっさとリタイアしろよ、もう収録すんな】

【それに比べて、佳子ちゃんは妹を起こさないように一人で行ってあげてたし、央くんも、こっそり家を出てた。マジで、二人ともいい子すぎる】

【すげえな、この女。わざわざ行ったのに、手伝って持ち帰ろうともしないとか。この二人、もしかして、親の仇かなんかなの?】

【お飾りものさん、チームワークって言葉を知らないのかね。ついでに、お坊っちゃまの分も持ってきてやりゃあ、どうってことないだろうに】

……

朝八時半。三組のゲストは、ナツメ農園に集合した。

本日の彼らの任務は、村人たちのためにナツメを収穫すること。収穫すべき具体的なキロ数は、各組のメンバーの合計体重によって決定される。そのため、収穫作業に入る前に、まずゲストたちは体重を測定し、記録を終えなければならない。

この任務を達成すれば、彼らは労働の対価として「貢献ポイント」を獲得し、番組側から食材と交換することができる。

番組で、公の場で、体重を測定すると聞いて、すでに落ち着きを失い始めているゲストがいた。

監督は、スタッフに体重計を持ってこさせ、皆の目の前に置いた。「さあ、誰から行く?」

その場にいた誰もが口を開かず、進み出ようともしない。その光景に、コメント欄の視聴者たちはいら立ちを隠せない。

【ただ体重計に乗るだけだろ?何をそんなに怖がってんだよ。さっさと乗れよ】

【まあ、芸能人だからな。自分の体重を公開したくない気持ちは分かる。でも、番組に出るって決めたなら、腹をくくれよ】

【番組も、エグいことするよなwwwシーズン1は身長測定で、シーズン2は体重測定か。次は、何を測らされるんだ?】

【どいつもこいつも、ガリガリのくせに。太ももだって、俺の腕より細いじゃねえか。何をそんなに卑屈になる必要があるんだ?】

【女優にとって、体重計は化けの皮を剥がす『真実の鏡』みたいなもんだからな。誰が乗りたがるかよ】

【女が嫌なら、男が出てきて手本を示せよ】

朝比奈初は、他のメンバーが、皆、深刻な顔つきで、監督の言葉に何の反応も示さないのを見て、すっと手を挙げた。「……じゃあ、私が先に」

みんなはそれを聞いて、一斉に朝比奈初の方を見た。

朝比奈初は、ゆったりとした足取りで前へ進み出ると、デジタル体重計の上に乗る。表示された彼女の体重は、47キロだった。

【うぉっ!美人さん、細すぎだろ!】

【うちの朝比奈さんを見ろよ、この潔さ。これぞ新時代の女性の鑑だ】

【もう、こいつを褒めるのやめない?芸能人でもないくせに、誰がお前の体重に興味あんの?】

【ちっ、どうせ体重が軽いから、自信満々なだけだろ。何を偉そうに】

【はいはい、そうですねー。彼女の自信の源は、体重だけじゃなくて、その美貌にもあるんですけどねー。嫉妬ですかー?】

朝比奈初が体重計に乗ったので、他の人たちも従うしかなく、一人ずつ体重計に乗って監督に記録してもらった。

最終的に、監督が統計したデータは、以下の通りだった。義姉弟ペア:116キロ。姉妹ペア:107キロ。姉弟ペア:119キロ。

本日の収穫量が確定すると、監督は、地元の作業員を招き、収穫の方法を指導させた。

この地域のナツメ農園は、昔からずっと手作業での収穫を行っている。そのため、時間も労力もかかるのだ。農園の管理人は、各組に、ナツメを叩き落とすための細い竹竿と、ビニールシートを配る。そして、少し訛りのある標準語で、真剣に、手本を示してくれた。

管理人はまず、広げたビニールシートを地面に敷き、木の幹から適度な距離を保つ。次に、竹竿を手に取り、軽く枝を叩いた。すると、木になっていたナツメが、ぱらぱらと面白いように落ちてくる。そして、ゆっくりとビニールシートを畳み込み、赤いナツメを収穫かごへと流し込んだ。

斎藤央はそれを見終わると、突然やってみたいという気持ちになった。「なんだか、結構、簡単そうですね」

管理人は、手を差し伸べ、親しげに言った。「ほれ、やってみな」

斎藤央は、ナツメ落としに興味を惹かれたらしい。彼は一人でビニールシートを敷くと、管理人に教えられながら、最初の一竿を叩きつけた。

初めての試みはあまりうまくいかず、落ちたナツメの数は数えるほどしかなかった。

彼は頭を掻きながら、気まずそうに照れ笑いを浮かべた。「……見た目ほど、簡単じゃないみたいですね」

【きゃわわわわwww央くん、この子は可愛いの塊を食べて育ったのかな?】

【ハハハハハ弟くん、大丈夫。これはきっと、竿が悪い。君のせいじゃない】

【お見事!……まあ、もうやらなくてもいいけどね!】

【頭を掻いて、きょとんとしてる弟くんの顔、10回はリピートできるwww】

【央くん、頑張って!もう、十分にすごいよ!いいね、押しとくね!】

「もう少し、力を入れてみな」と管理人は言う。「力を込めて叩けば、もっとたくさん落ちてくるもんだ」

彼は頷いた。「はい。もう一度、感覚を掴んでみます」

斎藤央は、先ほどのナツメの木で、さらに二度、竿を振るった。今度は、先ほどよりも多くの実が落ちてくる。彼は、すぐにコツを掴んだようだった。

同時に、篠田佳子と妹もナツメを打ち始めたが、このグループは女の子ばかりなので、力の面では少し不利だった。

二組が、任務達成のために、懸命にナツメを落としている。その一方で。画面の端では、未だに、二つの人影がぶらぶらと、何もせずにうろついているのだった。