長谷川一樹は、ちらりと朝比奈初の方へと視線を送った。その顔には、何の表情も浮かんでいない。「おい、食うのやめろよ。後で重さが足りなくなったらどうすんだ」
「大したことじゃないでしょ。足りなきゃ、あなたがもう数回、叩けばいいだけのことよ」
長谷川一樹は、言葉を失った。
朝比奈初は彼がしばらく忙しく働いているのを見て、最初は力を入れすぎていたが、今では効率が落ちていることに気づいた。
彼女は最後のナツメを食べ終わると、もう見ていられなくなった。手をこすり合わせ、竹竿を手に取って自ら行動しようとした。
ちょうどその時、管理人が彼らの方へとやってきた。朝比奈初が、まだ竿を振り下ろしていないのを見て、親切心から、指導に乗り出してきたのだ。「竿は、もうちいと、斜めにしてみな」
「こうですか?」初は、竿の傾きを調整した。
「いや、低すぎる。それじゃあ、上のナツメには届かねえよ」
管理人は直接手を出して彼女の竹竿を適切な位置に調整したが、朝比奈初はいつの間にか静かに手を離し、気を利かせて後ろに下がっていた。
二人が一緒に立つとあまりにも窮屈だったからだ。
管理人は、そのまま竹竿を持ち続け、丁寧に彼女に語りかけるしかなかった。「こうやって竿を構えて、そんで、叩き下ろすんだ」
朝比奈初は終始横に立ち、管理人が木からナツメを叩き落とすのを見ていた。その過程は迅速、正確、そして効果的で、彼女がまばたきをする間にすべて終わっていた。
「……今、あまりにも速すぎて、よく見えませんでした」
「おう、気にすんな。もう一回、やって見せてやっから」管理人は、実に親切な人物だった。一度だけ手本を、と言いながら、その手は止まらない。立て続けに、何本ものナツメの木を叩き、朝比奈初に、滔々と、その極意を語り続けている。
コメント欄の人数が、突如として急増した。まるで、皆が、朝比奈初の働きぶりを見に来たかのようだ。だが、見続けるうちに、視聴者たちは、何かがおかしいと気づき始める。
【さっきまで見向きもしなかったくせに、今更、熱心に教えを乞うのか?】
【てか、これ、教えを乞うてるって言うか?】