みんなはこの100匹の羊が同じに見えると思っているが、朝比奈初はそうは思わない。
広大な草原で羊を放牧する時、牧民は各羊に印をつけて区別し、他の家の羊と混ざらないようにする。
しかし、一部の年配の牧民は囲いの中の全ての羊を見分けることができ、目だけで放牧に出した羊が全て戻ってきたか、どの羊が足りないか、どの羊が迷子になったかまで分かるという。
これは長い時間の接触だけでなく、見分けるための方法やコツもあるに違いない。
朝比奈初の前には、頭を高く上げて彼女をじっと見つめる子羊がいた。その深い瞳には初の姿が映り、選ばれることを期待しているようだった。
それは朝、長谷川一樹についてまわってカメラに映り込んでいた子羊で、体つきはやや痩せ気味で、笑顔のような顔をしており、ピンク色の小さな鼻を持ち、二つの耳は高く立っていた。この羊の囲いの中で、その毛は比較的白くて清潔に見えた。
初は最初からそれに気づいていたが、一匹では足りない。彼女はもう一匹、おとなしくて見分けやすい羊を選ばなければならなかった。
その小さな子羊が熱心に見つめているのを見て、「あなたにお友達を見つけてあげるね」と言った。
初は隅にいる子羊に目をつけた。巻き毛で、草の切れ端がたくさん付いており、耳は少し下向きで、大型犬のような顔つきをしていて、かなり特徴的だった。
彼女は牧羊人に隅にいるその子羊を頼み、選んだ二匹の羊を連れ出そうとしたとき、斎藤彩が彼らの選んだ羊に目をつけた。
「これがほしい」斎藤彩は丁度羊の囲いの入り口近くに立っていて、牧羊人が初の選んだ子羊をこちらに追いやると、一目でその白い子羊を見つけた。
一目見ただけでそれが一番清潔で、見た目も良く、体のバランスも良く、小さなお腹もそれほど目立たず、誰からも愛される類の羊だった。
しかし斎藤が知らなかったのは、その羊にはすでに飼い主がいるということだった。
彼女が子羊を迎えようとしたとき、初は一樹を連れてやってきて、彼女が名札を取り出して子羊につけようとするのを見て、口を開いた。「斎藤さん、あの羊は私たちが先に選んだんです」
「それが重要?」斎藤は眉を少し上げ、口元には気づかれにくい嘲笑を浮かべた。「あなたたちのチームの札がついているわけじゃないでしょう」