柏木執事:「奥様はおっしゃっていませんでした。」
長谷川彰啓のような常に残業している人にとって、9時はたいしたことないかもしれないが、朝比奈初にとってはこの時間はやや不自然に思えた。
彼女は何をしているのだろう?
彰啓が考え込んでいるのを見て、柏木執事から自ら尋ねた:「奥様にお電話して、お戻りいただきましょうか?」
彰啓は目を伏せ、静かに言った:「必要ない。彼女は遊び疲れたら自然と帰ってくるだろう。」
初の自由に彼は干渉する権利はなく、また彼女に多くの規則を課したくもなかった。彼女が幸せであれば、他のことは問題ではない。
柏木執事:「かしこまりました。では少しお休みください。お食事を用意してまいります。」
柏木が夕食を準備している間、彰啓は2階へ上がり、自分の寝室へ向かった。ドアを開け、壁のスイッチに手を伸ばして明かりをつけた。
真っ暗だった寝室が一瞬で明るくなり、ベッドのシーツと掛け布団が淡い緑色のチェック柄に変わっていることに気づいた。カーテンやカーペットも交換され、家具の一部も配置が変更されていた。
部屋がこのように改装されているのを見て、彰啓は一瞬呆然とし、かなり衝撃を受けた。
彰啓はこれが初のやりそうなことだと分かっていた。彼はゆっくりと部屋に入り、軽く見て回った。
この馴染みのある空間が改装された後、突然違和感を覚えた。確かに自分の寝室なのに、なぜか女の子の部屋に無断侵入したような感覚があった。
彼は寝室からウォークインクローゼットへ移動し、扉を開けた瞬間、様々な女性用の服が色の濃いものから薄いものへと並べられているのが目に入った。各シーズンの服も順序よく整理されていた。
初は綺麗な服を多く持っているだけでなく、バッグや靴もそれぞれ一面の棚を占めていた。それに比べると、彰啓のシャツとスーツの棚はずっと単調に見えた。
彼は棚からグレーのパジャマを取り出し、バスルームへ向かった。
9時半頃、初が帰宅した。家に入るとすぐに、柏木執事がキッチンにいるのを見た。
初はとても不思議に思った。なぜ柏木執事が料理をしているのだろう?
長谷川家の使用人はそれぞれ担当があり、通常このような状況は起こらないはずだった。好奇心から、初は近づいていった。
「柏木さん、どうしてキッチンにいるんですか?お腹が空いたんですか?」