長谷川千怜が起きるのが遅かったため、もう朝食を座って食べる時間がなかった。朝比奈初は袋に一人分詰めて、後で道中で食べられるようにした。
「もう行くの?」長谷川の母は彼女たちが急いで出かけようとしているのを見て、突然朝比奈初が昨晩編んだマフラーがまだ自分の部屋にあることを思い出し、ついでに朝比奈初に一言伝えた。「あなたのマフラーがまだ私の部屋にあるわよ」
初は朝食を千怜の手に渡し、少し急ぎ気味に言った。「そのままでいいです。お気に入りでしたら、お持ちになってもいいですよ」
今の季節はまだコートを着るほど寒くなく、マフラーも必要ないので、特に気にしていなかった。
長谷川の母はそれを聞いて、口元を大きく上げ、目に喜色を浮かべた。「じゃあ、遠慮なくいただくわ」
初が編んだマフラーはとても綺麗で、誰だって欲しいと思うだろう。彼女もずっと欲しいと思っていたのだ。
ちょうど初がそう軽く言ったので、長谷川の母は特に気にせず、その言葉を真に受けた。
「大丈夫です。お気に入りなら持っていってください」今の初の最優先事項は千怜を学校に送り、彼女のクラスの学習環境がどのようなものか見ることだった。
初と千怜が出かけてしばらくすると、長谷川の母も食事を終え、家でしばらく休んでから、時間になってからゆっくりと出かけた。
彼女は手に袋を持ち、毛糸の玉と編み針、そして昨晩編み終わらなかったマフラーを入れた。
長谷川の母は昼休みの時間に編み物をして、この二色のマフラーを早く完成させ、同じデザインでもう一本編もうと考えていた。夫が帰ってくるのは冬だろうから、ちょうど使えるだろう。
彼女が片付けている時、初が昨日編み終えたマフラーもちょうど近くにあった。
そのマフラーを見て、長谷川の母はわざわざ手に取って畳み、棚に戻そうとした。しかし、まだ置く前に、ある場面が頭に浮かんだ。
前回、長谷川彰啓と電話した時、彼の居る場所は寒いと知っていたので、この時期にはマフラーが必要だろう。
しかし、彼女は初が編んだマフラーがとても気に入っていた。編み目が整っているだけでなく、色の組み合わせも素敵だった。
長谷川の母は元々畳んで片付けるつもりだったが、突然彰啓の状況を思い出し、少し迷った。