第303章

周防隼人が挨拶を終えると、黒崎雄介も朝比奈初に「お義姉さん」と呼びかけた。

来る途中で、長谷川彰啓は既に彼女に予習をさせていたので、初は彼らについても大まかな印象を持っていた。

初対面ということもあり、皆が丁寧に振る舞い、普段は話好きな隼人でさえもかなり控えめになっていた。

初:「お待たせして申し訳ありません」

「私たちもついさっき到着したところです」江川航:「みんな立ってないで、座りましょう」

席に着く前に、初は自分の手がまだ彰啓に握られていることに気づいた。彼女は無意識に彰啓の手の付け根を軽く押して、小声で言った。「手、離して」

手を繋いだのは彼女からだったが、今離すように言ったのも彼女だった。

外出先では、彰啓と一緒にいる限り、誰と対面していようとも、彼女は自分が彰啓の妻であることを忘れなかった。

彰啓は彼女からの圧力を感じ、ゆっくりと手を離し、前に進んで彼女の椅子を引いた。

二人のやり取りは全て見られていた。隼人は江川の隣に座り、体を傾けて江川に内緒話をした。「外では二人の結婚に問題があるって噂されてるけど、俺には何の問題も見当たらないけどな?」

江川は彼を一瞥し、少し嫌そうに言った。「問題があるのはお前だよ。外の噂話を信じるなんて」

「女性は華やかなバラのようなもので、丁寧に扱わなきゃいけないんだ。長谷川みたいな仕事人間は、しょっちゅう出張だろ?信じたくなくても難しいよ」

江川は眉を上げ、真面目な顔で言った。「もしかしたら彼が育てているのはバラじゃなくて、サボテンかもしれないぞ」

江川の比喩を聞いて、隼人はため息をつき、感慨深げに言った。「だからこそ彼らは結婚の殿堂に入れるんだな。俺を待っているのは別れの結末だけだ」

江川:「……」

初がテレビ番組に出演することはもう珍しいことではなく、彼らも暇な時にはライブ配信から流出した短い動画を見かけることがあった。

彼らのような部外者の目には、バラエティ番組には台本があると思われていたが、今日初本人に会ってみると、彼女はかなり素直で、ネットの評判通り面白い人だった。

みんな初のことが気になり、次々と質問を投げかけた。彼女の卒業校や専攻が彰啓とは全く関係ないことを知り、驚いた。

そうなると、二人が同窓生である可能性も排除された。