この時、朝比奈初と長谷川彰啓はすでに寝室に戻っていた。
部屋に入ると、二人の手は自然と離れた。
初は上着を脱ぎながら、振り向いて彰啓に話しかけた。「さっき階下にいた時、どうして何も言わなかったの?」
「何を言えばいいんだ?」彰啓は好奇心を持って彼女を見つめ、眉間に疑問の色が浮かんだ。
「何でもいいのよ」初は上着をソファに置き、顔を上げて彰啓を見つめた。突然、両手を背中に回し、ゆっくりと彼に近づきながら問いかけた。「私には考えがないけど、あなたにもないの?」
彼女の突然の接近と何気ない口調、そして誠実な眼差しには、どこか審査するような意味が込められているようだった。
初は彰啓から目を離さず、まるで彼の顔に答えが書いてあるかのように見つめていた。
ちょうどこの二日間、彼女にはいくつか疑問があったので、この結婚式の話を利用して彰啓の態度を探ってみることにした。
初の厳しい質問に対して、彰啓は怯む様子もなく、躊躇いのない口調で答えた。「ないよ」
彰啓はこの件について確かに期待を抱いていたが、それは今ではなかった。
現在の彼は、たとえ結婚式の計画がどれほど完璧であっても、お互いにとっては性急で不完全なものだと考えていた。
感情の基盤がない状態で結婚式を挙げるのは、本当に形式だけのものであり、何の意味もない。
初は平然と言った。「そう」
彰啓の答えは理にかなっていたが、予想外でもあった。
おそらく初があまりにも切実に何かを確かめたいと思っていたため、この答えを聞いて少し失望してしまったのだろう。
彰啓との会話を終えると、初はさっぱりとシャワーを浴びることにした。「お風呂に入ってくる」
彼女は振り返り、ソファの上着を手に取って彰啓の視界から消えた。
暇を持て余した彰啓はカメラを手に一人でソファに座り、先日紅葉の森で撮った写真を見直し、一枚も欠かさずパソコンにコピーした。
初がシャワーを終えて出てきた時には、カメラは彰啓によって元通りテーブルに置かれ、まるで触れられていないかのようだった。
……
ベッドに横になってから、初は荷物をまだ片付けていないことを思い出し、無理やりベッドから起き上がってウォークインクローゼットへ向かった。
彰啓はまだシャワーを浴びている間、初はスーツケースを開けて床に置き、クローゼットから服を探し始めた。