ちょうどそのとき、長谷川彰啓も顔を向けて朝比奈初を見た。
二人の視線が不意に交差し、まるで目に見えない磁場が互いを引き寄せるかのように、無意識のうちに二人の距離が縮まっていった。
雰囲気が徐々に甘くなっていくのを感じ、江川航は自分が余計な存在に思えてきた。彼は仕方なく二人の空気を壊すように口を開いた。「あの...もう遅いし、そろそろ帰るよ」
二人が見送る間もなく、航は自ら後ろから立ち去った。
航が去った後、周囲は再び静寂に包まれ、二人は黙ったまま、お互いが口を開くのを待っているようだった。
「さっき何て言ったの?」彰啓の眼差しは優しく、低い声には言葉では表せない魅力があった。
初は突然視線をそらし、うつむいて足元を見た。地面には二人の薄暗い影が映っていた。
彼女はポケットに両手を入れ、目を伏せ、軽く唇を噛み、目元には微かな笑みを隠しながら、小さな声で言った。「あなたが聞いたとおりよ」
彰啓は彼女を見つめ、眉目に喜びの色を浮かべ、隠すことなく言った。「全部聞こえたよ」
初は笑みを含んだ目で彰啓をちらりと見て、すぐにまた地面に視線を落とし、冷静に「ふーん」と返した。
朝比奈初がどれだけ落ち着いているつもりでも、無意識の反応は人を欺けなかった。
彰啓の前では、彼女も恥ずかしさを感じるのだった。
長い間外に立って夜風に吹かれていたせいで、初は外が少し寒く感じ始めた。彼女のコートはボタンが留められておらず、髪も風に揺れ、乱れた中にも美しさがあった。
「帰りましょう」彼らは入り口に長い間立っていたので、そろそろ移動する時間だった。
彰啓は尋ねた。「どこに帰るの?」
「番組のところよ」明日もいつも通り番組の収録があるから、彼女は必ず戻らなければならなかった。
彰啓は彼女を一瞥し、静かに口を開いた。「送っていくよ」
初はうなずいた。「ありがとう」
——
バラエティ番組の収録現場
今日の生放送がもうすぐ終わりそうだったが、視聴者たちは朝比奈初が戻ってくるのを待てなかった。
【うぅ、今夜は朝比奈さんの最後の姿が見られないってこと?】
【今夜のオンライン視聴者数が目に見えて少ないね。やっぱりこの番組は朝比奈さんがいないとダメなんだね】
【急にクロカンが恋しくなった。彼がいたら、きっと朝比奈さんと撮影について相談してたよね~】