長谷川彰啓はその場に立ち、朝比奈初が空港に入っていくのを見送った。彼女の姿が徐々に視界から消えていくまで見届けてから、ようやく車に戻った。
彼はドアを閉め、しばらく窓の外に視線を留めた後、ようやく目を戻して山口秘書に言った。「行こう」
山口秘書はエンジンをかけ、車を駐車エリアから出して空港を離れた。
おそらく彰啓が少し上の空だと感じたのか、山口はバックミラー越しにこっそり何度か彼を見た。しかしすぐに見つかってしまった。
彰啓が何気なく顔を上げると、山口が自分を見ていることに気づいた。
山口は盗み見が見つかってしまい、すぐに心虚になって視線をそらし、落ち着いたふりをして前方を見つめた。
彼の小さな動きがあまりにも多かったため、彰啓はそれを無視できず、眉をひそめて尋ねた。「何か言いたいことがあるのか?」
彰啓が話しかけてきたのを聞いて、山口の緊張した体はようやく少しリラックスした。彼は笑顔を浮かべながらも、表情には警戒心が見えた。
しばらくして、山口はバックミラー越しに彼を一瞥し、探るように尋ねた。「長谷川社長、仕事と関係ないことですが、言ってもいいですか?」
山口が謎めいた態度を取り続けるのを見て、彰啓の好奇心が掻き立てられた。
昨夜、初が個人的に山口と話し合ったことを彼は知っていた。今、山口がこのように言いたげな様子を見せるのは、昨夜の会話に関係があるのではないかと彰啓は考えた。
彰啓はゆっくりと口を開いた。「聞かせてみろ」
許可を得て、山口はようやく咳払いをし、慎重に切り出した。「あなたと奥様は、結婚後に恋愛をしているのですか?」
山口が言い終わった後、彰啓は数秒間沈黙し、目には戸惑いの色が浮かんでいた。
この質問について、彼自身も答えを見つけていないようだった。
彰啓がしばらく黙っているのを見て、山口は小声で付け加えた。「社長と奥様の関係に新しい進展があるように見えるのですが」
山口は、前回彰啓が国に戻ったとき、重要な変化を見逃してしまったのではないかと考えていた。
彰啓は落ち着いた表情の中に好奇心を覗かせ、問い返した。「どんな進展だ?」
「二人が恋愛しているように見えませんか?」