第310章

長谷川彰啓は目を伏せ、彼女の視線と丁度合わさった。その深い瞳には複雑な感情が隠されていた。

朝比奈初の口から再び「旦那さん」という呼び方を聞いて、彰啓の聴覚と感情は非常に敏感になっていた。その声の刺激から感情の変化までほんの一瞬だった。

彼は表面上は平静を装っていたが、内心では既に激しい感情の波が渦巻いていた。

それが先ほどの運動のせいなのか、あるいは他の理由で生理的な反応が起きているのか、体内に多くの熱が生じているように感じた。

初に向き合うと、彼の心拍は明らかに加速した。この感覚はかなり不思議なものだった。

彰啓のこのような反応は、初も予想していなかったことだった。

彼はただじっと自分を見つめ、何も言わなかった。

初は何気なく眉を上げ、生き生きとした瞳に淡い笑みを浮かべ、軽くて柔らかな声で言った。「旦那さん、そうでしょう?」

彼女のこの「旦那さん」という呼びかけは、実に自然だった。

人を惹きつけながらも、それを自覚していない。

彰啓はそれを聞いて、思わず唇の端を上げ、優しく深い愛情を込めた眼差しで「うん、でも世代的に考えると、君がそう呼ぶ必要はないよ」と答えた。

「彼らは彼らの呼び方で、私は私の呼び方で、それって矛盾しないと思うけど」初は彼を見つめながら、突然「あ、気になる?」と言った。

初の最後の一言を聞いて、彰啓は一瞬呆然とした。特に彼女と目が合った時、まるで呼吸が止まるかのようだった。

しばらくして、彰啓は少し視線を上げ、彼女の目を避けながら静かに「…気にしてない」と答えた。

彰啓は先ほどの言葉で、彼女に彼らに対してそこまで丁寧にする必要はないと特に注意していた。

彼女と話しながらも目を合わせられないのは、どう見ても心虚な様子だった。

もう一つ彼女が忘れかけていたことがあった…

江川航は今朝、出かける時に彼女にも槎県に行くと言っていたが、結局何の成果もなく、今は皆が賑やかな市街地にいた。

これらの一連の出来事を考え合わせると、初はある程度推測できたが、まだ自分の予想を確かめる時間が必要だった。

……

第二ラウンドでは両チームとも組み合わせを変え、黒崎雄介が周防隼人の代わりに、江川が初と交代した。

雄介は最初に初と彰啓に注意を促した。「二人とも気をつけてね、僕は結構激しく打つから」