第312章

江川航が電話をかけているのを見て、周防隼人はすぐに察し、気を利かせて言った。「じゃあ、先に出ておくよ」

航は適当に「うん」と返事をしたが、心はすべてこの電話に集中していた。相手が電話に出るのを待つ間、彼の表情には不安と緊張の色が浮かんでいた。

今回の予期せぬ出来事について、航は心の中で後で言うべき言葉を繰り返し考えていた。電話がつながったらすぐに相手に説明しようと思っていたが、先に話し始めたのは彼ではなかった。

電話から聞こえてくる馴染みのある声が自分の名前を呼んだとき、航は叱責される覚悟をしていた。

しかし、航が予想していた問題は何も起こらず、むしろ意外な質問を聞くことになった。「航、あなたって本当に気が利かないわね。今日、朝比奈さんに会いに行くって、どうして私に言ってくれなかったの?」

航はそれを聞いて少し困惑した。彼の表情はまだ緊張したままで、完全にリラックスすることができなかった。「俺も今朝知ったばかりだよ」

女性の優しい声には興奮と好奇心が混ざっていた。「じゃあ、彼女って実際にはテレビで見るよりもっと美しいの?」

「……これって答えられない質問だよね?」航は完全に戸惑ってしまった。

「もちろん違うわよ」

航は「つまり、俺に電話やメッセージをくれたのはそれだけのこと?」と言った。

……

周防隼人が更衣室から出てくると、ちょうど朝比奈初たちがいた。

隼人が一人で出てくるのを見て、黒崎雄介は好奇心を持って尋ねた。「江川は?」

「彼女と電話してるよ」急に話題のことを思い出し、隼人は彼らに言った。「そういえば、さっき航から聞いたんだけど、俺たちがトレンド入りしたらしいよ」

雄介は「俺たちってあまり表に出ないのに、どうして急にトレンド入りしたんだろう?」と言った。

「でも、お姉さんがいるじゃないか。トレンド入りは当然だよ」

「私?」このトレンドが自分に関係していると聞いて、初も驚いた。

初はスマホを取り出してWeiboのトレンドを確認すると、本当にレストランを出るときの写真が載っていた。

ネットユーザーたちはコメント欄で写真に写っている男性と朝比奈初の関係について熱心に議論していた。

初は大まかに内容を見終わると、突然顔を上げて隼人と雄介を見た。「このトレンド、あなたたちに迷惑をかけないかしら?」