第46章 佐々木琴子

佐々木静は頭を下げ、今すぐこの病室から出て行きたいと思った。

田中純希は驚いて佐々木静を見つめ、そして視線を中島陽太に移した。

渡辺健太も彼女の視線に沿って冷たい目で陽太を見た。

陽太は無実を示すように両手を上げた。「純希、なんでそんな目で見るんだよ。俺は彼らが恋人だなんて一度も言ってないよ！」

純希はようやく確信した。彼らは本当に恋人ではなく、前回は自分の誤解だったのだ。

口元に微笑みが浮かび、心の中で急に軽くなった気がした。

彼女は、静が健太のことを好きで、だから健太に近づく女性すべてに敵意を持っているのだろうと思った。自分が彼らを恋人関係と誤解していると知り、その誤解を利用して渡辺さんの彼女という立場で自分を責めたのだろう。

では自分はどうなのか、健太に対してどんな気持ちを抱いているのだろう？

純希はそれ以上考えることができなかったが、ただこの瞬間、心の底から喜びを感じていることだけは分かっていた。

「私が間違っていたみたいですね」純希は静を怒らせるためなのか、それとも別の理由なのか分からないが、健太に言った。「荷物が少し多いので、今晩高橋小父さんに住所を教えます。高橋小父さんに荷物を渡辺家に運んでもらえると助かります。渡辺さん、小さな部屋で十分ですので、本当にありがとうございます」

健太は眉間のしわを緩め、相変わらず変わらない口調で言った。「一番小さな部屋でもこの病室の二倍はあるよ」そう言って出て行った。

彼は病院を出ると、目の奥にかすかな笑みが浮かんだ。運転手は自分の目を疑った。今日は何か良い日なのだろうか？社長はとても嬉しそうに見える。

純希はふと、加藤雅子の騒動について健太にどう思っているか聞くのを忘れていたことに気づいた。でも、もう聞く必要もないかもしれない。

心の中に微かな暗黙の了解が生まれた。健太は信じないだろう。彼は雅子がただ自分を中傷しようとしているだけだと知っているはずだ。

静はとっくに病室を出ていた。彼女が去る時、顔には恥ずかしさと怒りが入り混じった表情があった。渡辺さんはこれだけの人の前で、彼女との距離を大きく取ったのだ。

これだけ長い年月が経っても、彼は自分を一目見てくれないのだろうか。彼女が望むのはそれほど多くないのに！