松本智の質問に田中純希は少し困惑した。会社に乗り込んできた人が彼女を「他人の家庭に入り込んだ狐狸精」と罵り、会社が彼女に「悪影響を及ぼした」として自主退職を促したことを話すべきだろうか?
純希はもちろんそんなことは言えなかった。そんな恥ずかしい話はできない。ただ曖昧に「個人的な理由です」と答えるしかなかった。
智も賢い女の子だった。質問した直後に失言したことに気づき、純希の歯切れの悪い返事にもそれ以上追及しなかった。彼女は言った。「それに、いちいち表兄を総経理って呼ばないで。会社じゃないんだし、変でしょ。名前で呼べばいいじゃない。表兄、どう思う?」
山崎翔は仕方なく彼女の頭を撫でた。「君の言う通りにするよ」。この従妹を本当に可愛がっているのが見て取れた。
智の輝く目は三日月のように笑った。「表兄最高!」
純希はこんな兄妹関係が本当に羨ましかった。
もちろん彼女は山崎翔をいきなり名前で呼ぶことはできなかった。「では山崎さんと呼ばせていただきます」と彼女は言った。
翔はうなずいた。「そんなに堅苦しく考えなくていいよ。何でも構わない」
三人は図書館へ向かった。そこが撮影場所の第一候補だった。
道中、智は純希に説明した。「表兄が学校に来たのは、今夜のチャリティーパーティーに私を連れて行くためなの。でも私は行きたくなくて、せっかく来てくれたんだから、学姉たちの卒業記念写真の撮影に協力してもらおうと思って。彼女たちはきっと喜ぶわ」
純希は目の端で翔を見た。彼が非常に困った表情をしているのを見て、心の中で「この子は本当に身内に冷たいな」と思った。自分の身内を助けるどころか、翔を狼のような女子たちの群れに放り込もうとしているのだから。
あの女の子たちがどれほど積極的か、純希は身をもって知っていた。翔がこの先どう対処するか心配だった。
純希の予想は的中した。三人が図書館前の広場に現れると、女子学生たちは全員翔に釘付けになり、積極的に彼を取り囲んでおしゃべりを始めた。誰も主任カメラマンである純希の言うことを聞かず、純希がどれだけ声を張り上げても誰も協力してくれなかった。本当にイライラする状況だった。