渡辺社長の非難に対して、田中純希はもちろん認めるわけがなかった。「していません」
「見たぞ」
「見間違いです」
おやつを届けに来た加藤さんは首を振るばかりだった。純希が来てから、若様は確かに話すようになったけれど、この会話は少し異常じゃないか!全く若様らしくない!
この変化は大きすぎる!
奥様はずっと自分に純希のことを見ておくようにと言っていたが、自分は長い人生を生きてきて、人を見る目には自信がある。純希には悪意など全くなく、ただ節約しすぎるところがあるだけだと思っていた。
加藤さんは控えめに純希に目上の人に対する態度を注意した。純希はようやく自分がまた渡辺社長と言い争っていたことに気づき、恥ずかしそうに笑って、もう渡辺健太と議論するのをやめた。
渡辺社長はまだ不機嫌で、とことん聞き出そうとした。「今、俺を睨んでいただろう?」
純希は初めて彼が少し幼稚だと感じた。「渡辺さん、なんでそんなにおしゃべりなんですか。私の仕事の邪魔をしないでください」
「……」健太も言葉に詰まる時があるようだ。
加藤さんは内心で笑いながら階下へ降りていった。
純希は落ち着いて書画の手入れをしていると、棚の上に歴史的価値のあるカメラを見つけた。
写真愛好家はカメラに対して特別な要求を持っているものだが、純希はこのカメラを一目見ただけで、それが滅多に出会えない逸品だとわかった。
「渡辺さん、このカメラ素晴らしいですね!」
健太は面倒くさそうに一瞥して言った。「借りたいのか?無理だ」
図星だった。
純希は冷や汗をかいた。確かにこのカメラで試し撮りしたいと思ったが、それは単なる願望に過ぎず、実際に手を出す勇気はなかった。万が一どこかに傷をつけたら、本当に胃が痛くなるほど弁償することになるだろう。
純希はカメラを何度も見つめ、専用のお手入れ布で何度も拭いてから、慎重に元の場所に戻した。心の中で、健太の書斎はまるで宝物庫のようだと思った。何でも揃っている。
健太のカメラを見た後、純希は自分が大金をはたいて買ったレンズを見ると、このレンズもたいしたことないように思えてきた。
人間とは、本当に欲深い生き物だ。
純希は撮影機材を全て準備し、すぐに卒業写真の撮影日がやってきた。