私が不要なものは、どんなに良くてもゴミ同然

須藤夏子はよろめきながらホテルのロビーに走り込んだが、もう支えきれなくなっていた。

意識を失いかけたその時、前方に見覚えのあるシルエットが彼女の目を引いた。

そして、ぼやけていた視界と意識が、その刺激で一瞬にして鮮明になった。

なぜ！

なぜこんな時に彼女と会わなければならないの！

夏子は自分の惨めな姿を知っていたが、今さら逃げようとしても間に合わない！

なぜなら深井杏奈はすでに彼女を見つけ、こちらに向かって歩いてきていたからだ！

今日の杏奈は、高級ブランドの白いフリンジの長いドレスを身にまとい、完璧なメイクと輝くような顔色で、まるで生まれ変わったかのように、非常に上品で優雅に見えた。

しかし夏子はその姿に目を灼かれるような痛みを感じた。

「夏子、あなたが来るとは思わなかったわ。でも、せっかく来たのに、なぜ中に入らないの？まだお姉さんを恨んでいるの……」杏奈は夏子の前に立ち、優しいお姉さんのような笑顔を浮かべながら、自ら夏子の手を取ろうとした。夏子の今の惨めな姿を完全に無視し、まるで気づいていないかのようだった。

夏子は杏奈が自分に触れた瞬間、素早く一歩後ろに下がった。

杏奈は彼女が避けるのを見て、その柔らかな目に一瞬狡猾な光が走ったが、すぐに消え、ため息をついて少し困ったように言った。「夏子、私が悪かったわ。でも私と石川さんの婚約は、深井家と石川家が決めたことなの……今さら何を言っても無駄だとわかっているけど、どうすればお姉さんを許してくれるの？」

「お姉さん？許し？」夏子はこの言葉を聞いて、皮肉っぽく笑った。

この女、最近深井家の令嬢として戻ってきた深井杏奈は、幼い頃から彼女と一緒に須藤家で育ち、二人で留学し、そして海外で一緒に石川城太と知り合った。

城太は彼女たちより二学年上で、修士課程を終えて先に帰国していた。そして城太は帰国前夜、みんなの前で彼女にプロポーズし、彼女が卒業したらすぐに結婚すると約束した。

彼女は城太を好きで、城太とずっと一緒にいると信じていた。

しかし今、彼女が卒業して帰ってきたのに、城太が娶ろうとしている相手は杏奈に変わっていた！

杏奈は彼女が城太を愛していることを知りながら、残酷にも彼女が長い間待ち望んでいた幸せを奪い、今さら許しを請うなんて！

もし本当に彼女の許しを求めるなら、最初から城太を奪うべきではなかった！

さらに自分の利益のために、彼女を三橋羽望のような男と結婚させるよう画策するべきではなかった！

彼女と三橋羽望の婚約は杏奈が仲介したもので、会う場所と時間も深井家と石川家が手配したものだった。杏奈がそれを知っていたに違いない。さらに三橋羽望の企みもよくわかっているはずだ！

こんなにも偽善的な態度を見せられるとは、夏子は今日目を見開かされた思いだった！

「深井お嬢様、私が今日何をしに来たのか、あなたはよくご存知でしょう！あなたは私の許しを求める必要はありません。なぜなら石川城太が私を捨てると決めた瞬間に、こっちはもう先に彼を捨てていたからです。よく言うでしょう？『自分が捨てたものは、たとえ宝石でもただのガラクタ』って。石川城太は私が要らないゴミなのです。あなたがそれを拾いたいなら、ご自由にどうぞ！」

夏子の言葉が終わるや否や、城太と石川家の人々がホテルロビーの反対側から歩いてきた。

そして彼女が言ったことは、一言も漏らさず城太の耳に入っていた。

城太の表情は一瞬凍りつき、目も急に鋭くなったが、瞬く間に何も聞こえなかったかのように、石川家の人々と前後して歩いてきた。

杏奈は城太と石川家の人々が近づいてくるのを見て、瞳に一抹の躊躇いを浮かべた。城太に夏子の惨めな姿を見せるわけにはいかない。ましてや、夏子の様子が周囲の疑念を招くことなど、絶対に許されないのだ。

「夏子、あなたが怒っているのは分かるわ。どこかで二人きりでゆっくり話し合いましょう？」杏奈はそう言うと、再び手を伸ばして夏子を引っ張り、急いで彼女を連れ去ろうとした。

しかし夏子は彼女の接触を嫌悪し、憚ることなく杏奈を強く押しのけた。二人は同時に彼女の力で体のバランスを崩し、後ろに倒れそうになった！