第19章 後悔しない

これから後悔するかどうか、須藤夏子にはわからなかった。ただ彼女が知っているのは、今この契約書にサインしたら、絶対に後悔するということだけだった。

すぐに夏子は木村弘恪の言葉を頭から追い出した。結婚契約書については、本来なら破り捨てるつもりだったが、よく考えてみると、お金を返した後で西園寺真司の目の前で破り捨てる方が気が晴れると思い直した。そうすれば溜飲が下がるというものだ！

二つの書類を同時に箱の底に片付けると、夏子は家に帰る準備を始めた。

須藤家。

深井杏奈は夏子が家を出たと聞いて、急いで須藤家に確認にやってきた。

「お父さん、お母さん、夏子は本当に出て行ったの？もう戻ってこないの？」杏奈の顔には、隠しきれない喜びが浮かんでいた。この時、石川城太は彼女の側におらず、須藤家には彼女と木村眉子、須藤明良しかいなかったため、杏奈は完全に偽りの仮面を脱ぎ捨てていた。

眉子も笑顔で杏奈の手を取り、言った。「本当に出て行ったわ。あの子が一番気に入っていたボロ車まで持って行ったから、しばらくは戻ってこないでしょうね」

明良は喜びとも悲しみともつかない表情で、淡々と杏奈に尋ねた。「三橋家の件は解決したのか？」

杏奈はそこで何かを思い出したように、急に表情を引き締めて言った。「ちょうどお二人に話したいことがあるんです。夏子と西園寺真司のことについて」

明良夫妻はその恐ろしい名前を聞いて、顔色が一変した。特に眉子は驚いて声を上げた。「夏子と西園寺？夏子がどうして彼と関わりを持つことになったの！私たちが夏子を海外に送り出したのは、あの人たちに会って子供の頃のことを思い出さないようにするためだったのに、どうして…これはいったいどういうことなの？」

杏奈は暗い表情で、昨日西園寺が突然現れて夏子を連れ去ったことを話し、続けて言った。「今日、三橋羽望に会いに行ったとき、羽望はもう退院していたので、三橋家に行ってみたんです。そこで大変なことになっていると知りました！」

「夏子と西園寺の話じゃなかったの？どうして三橋家の話になるの？」眉子は焦りを隠せず、傍らの明良も困惑した表情を浮かべていた。