第18章 荒唐な婚前協議

あの日以来、須藤夏子は西園寺真司に積極的に連絡することはなく、西園寺も彼女に連絡を取ることはなかった。

夏子は、賠償の件はこのまま一時的に保留されるのかもしれないと思っていた。しかし、西園寺のアシスタント兼弁護士である木村弘恪が書類を持って彼女を訪ねてきた。

「須藤お嬢さん、これは専門家が算出した賠償明細です。ご確認ください」弘恪は見知らぬ人とは思えないほど、夏子に対して敬意を示した。

おそらく彼の生まれつきの几帳面で寡黙な性格のせいで、夏子はこれが単なる儀礼的な礼儀だと思い、その点に気づかなかった。彼女は不安げに書類を受け取って見ると、椅子から転げ落ちそうになるほど驚いた！

「えっと...300万円じゃなかったんですか？どうして100万円も増えているんですか？」

弘恪は平然と説明した。「若様のこの車は特注品で、世界に一台しかありません。部品は修理できず交換するしかなく、一部の部品は本社で新たに製作する必要があります。それに減価償却費、精神的損害賠償を加えると、この金額になります」

「精神的損害賠償？」夏子はそれを聞いて、思わず口元が震えた。「精神的損害まで賠償しなければならないんですか？私は車にぶつかっただけで、彼自身は怪我していないのに...」

「須藤お嬢さんはご存じないかもしれませんが、この車は若様の愛人のようなものです。精神的損害賠償はその車のためのものです」弘恪は真面目な顔で西園寺の言葉を伝えた。

夏子は言葉を失った。

これはまさに強盗のような論理だ！

「通常、このような民事紛争の賠償期限は1年ですが、若様は東京に3ヶ月だけ滞在する予定です。若様のスケジュールと車の特殊性を考慮して、3ヶ月以内に賠償金を全額お支払いいただきたいと思います」

「3ヶ月！」夏子は驚きの声を上げた！

弘恪の表情は変わらず、賠償に関する書類をさっと閉じると、別の書類を取り出して言った。「若様も、須藤お嬢さんの経済状況では3ヶ月以内に数百万円を返済するのは確かに難しいとご理解しています。そこで、若様は須藤お嬢さんに第二の選択肢をご用意しました」

そう言って、彼は二つ目の書類を開いて夏子に渡した。

「婚前契約書」という大きな文字が契約書の上部に書かれていた。

「私は西園寺さんと結婚するつもりはありません！」夏子は詳しく見もせずに、書類を押し返した。