深井杏奈が待っていたのは、須藤明良が決心を固めることだった!
この数年間、明良は夏子に対して罪悪感を抱き、彼女に何かを無理強いすることを拒んできた。杏奈が目的を達成するためには、夏子をだましたりすかしたりするしかなかった。今や夏子は彼女を信じなくなり、杏奈は明良の力に頼るしかなくなっていた!
「お父さん、もう考えたわ。夏子を東京に残すことはできないし、外をうろつかせることもできない。一番いい方法は、夏子を海外に嫁がせることよ。千景市や東京からできるだけ遠くへ。夏子は海外で何年も暮らしてきたから、もう海外の生活様式に慣れているわ。私たちがきちんと手配さえすれば、彼女が不自由な思いをすることはないはず」
そう言うと、杏奈はバッグから一枚の写真を取り出した。
明良がそれを受け取って見ると、外国人の男性で、なかなか良い雰囲気を持っていた。
「この人は家柄も容姿も一流で、音楽を学んでいるの。以前夏子に好意を寄せていたこともあるわ。私の結婚式に招待するつもりよ」
明良には分かっていた。彼女は夏子を罠にかけようとしているのだ。
杏奈は明良の目に不賛成の色が浮かんでいるのを見て、急いで木村眉子に目配せした。
眉子は杏奈を安心させるような目線を送ってから、口を開いた。「明良、もう迷っている場合じゃないわ。今、西園寺真司が現れたのよ。夏子がここにいるということは、時限爆弾を側に置いているようなものよ。もし杏奈と夏子が身分を入れ替えたことがバレたら、深井家も西園寺家も私たちを許さないわ!」
明良はこれらの言葉を聞き終えると、写真を持つ手に力が入り、張り詰めた表情に葛藤の色が浮かび、やがて静かになっていった。最後に、彼はため息をつき、写真をテーブルに投げ出して言った。「杏奈の言う通りにしよう」
杏奈と眉子は同時に安堵のため息をついた。
明良は母娘を見つめ、3秒ほど沈黙した後、杏奈に言った。「お前と夏子は身分を入れ替えた。西園寺家の人々は、お前が西園寺真司の命の恩人だと思っている。この数年間、お前の誕生日には西園寺夫人が高価な贈り物を送ってきた。それだけお前を重視しているということだ。結婚式の日には西園寺家の人間が来るかもしれない。行動には気をつけろ!」
「分かってるわ」杏奈は笑顔で答えた。