「須藤お嬢さん、あなたは職歴がないものの、歌唱技術と舞台での表現力は素晴らしく、一流音楽学府の出身でもあります。あなたを採用できることは、我が校の光栄です」
須藤夏子はようやく面接官の口から自分の名前を聞いた。しかもこれほど敬意を込めた言い方で。彼女は思わず感動して、目が赤くなった。
「ありがとうございます。本当にありがとうございます」
「本校は半月後に正式に生徒募集を始めます。その時には須藤お嬢さんにも仕事に参加していただくことになりますので、それまでに入職手続きを済ませてください。詳細な勤務時間、待遇、福利厚生については、後ほど担当者から詳しくご説明します」
言い終わると、ステージ下の三人の面接官は楽屋から出て行き、ホールの照明も同時に明るくなった。
夏子が振り返ると、宮平一郎がまだ彼女を待っていた。彼女は小走りで近づき、言った。「宮平様、私はまだ採用の詳細について話し合わなければならないので、少し時間がかかるかもしれません。もし用事があれば、先に行かれても構いませんよ。待つ必要はありません。今度私がご飯をおごります」
一郎は微笑んで言った。「社長から頼まれた件は全て済ませましたし、他に予定もありません。それに、ここのスタッフは皆知り合いですから、私がいれば須藤お嬢さんのために福利厚生の交渉もできますよ」
夏子は考えてみると、確かにその通りだと思った。彼女にも交渉したいことがあった。
「では一緒に行きましょう」
一郎は椅子に置いてあったバッグを夏子に渡した後、彼女を学校の人事部へ案内した。
人事部の責任者は一郎を見るなり、本能的に表情を整え、笑顔で立ち上がって迎えた。「宮平様、お久しぶりです。こちらの方は—」
「今日採用が決まった声楽の先生、須藤お嬢さんです。私の友人です」
「あぁ、こちらが須藤お嬢さんですか。どうぞお座りください」人事部の責任者は仕事が手際よく、二人を座らせた後すぐに採用条件と待遇について説明した。
一コマ五百元、その他の福利厚生は別計算。彼女のような新人にとっては悪くない条件だった。しかもこれはあくまで基本給だ。
「須藤お嬢さん、何かご要望があればおっしゃってください。検討させていただきます」言い終わると、人事部の責任者はこっそり一郎の方を見た。