第88章 愛情と利益を比較する

「西園寺真司、過去のことはもう話さないって言ったじゃない？あの人たちは私にとって、もう過去のことよ」この質問に答えたくなかった須藤夏子は、どう答えればいいのかも分からず、最終的に逃げることを選んだ。

しかし彼女がそう言った時、西園寺真司は彼女の目をじっと見つめていた。夏子は目を逸らそうとしたが、真司は彼女の目から簡単に彼女の心情を読み取ることができた。

彼は彼女が必ず考えたことがあるはずだと知っていたが、おそらく自分が木村眉子の娘ではないとは考えたことがなかっただろう。そうでなければ、彼女の目はあんなに迷いと残念さに満ちていることはないはずだ。

彼女がそんなことを考えたことがなければ、それでいい……

「わかった、君の言う通り、もう話さない。今、動けるか？」真司はそこで話を切り上げ、立ち上がる際に夏子を抱き起こした。

夏子は傷口が少し引っ張られて痛みを感じたが、行動に支障はなかった。そのため彼女は頷き、美しい瞳に笑みを浮かべて言った。「走ることだってできるわ、動くなんて問題ないわよ。医者だって皮膚の表面だけの傷だって言ってたし」

「歩けるなら、ある場所に連れて行きたい」真司はそう言うと、血がついた服を着替え、車のキーを持って出かける準備をした。

ホテルの入り口に着くと、宮平一郎と木村弘恪が向かい合わせに歩いてきた。

「旦那様、もうすぐ日が暮れますが、まだ出かけられるのですか？私が運転します」

スポーツカー以外では、真司は自分で運転することはほとんどなかった。彼は考えることもなく車のキーを一郎に投げた。この間、真司は弘恪を一度も見なかった。

一郎はキーを持って先に駐車場へ向かい、真司は夏子の手を取って外へ歩き出した。

夏子は彼らの間の異常さに気づき、振り返って弘恪を見た。弘恪が唇を固く結び、複雑な表情で彼女と真司を見つめているのを見て、彼女は何かを悟ったように立ち止まり、真司に尋ねた。「今日の午後のことで弘恪さんを責めているの？私が知らない方がいいと思っていたことは分かるけど、私があそこにいたのは偶然だったの。誰のせいでもないわ」