確かに、陸橋天音が学校に引っ越した後、広々としたスイートルームには彼女と西園寺真司の二人だけが残された。
でも彼女と彼の間に二人きりの世界を楽しむようなことがあるだろうか。
他の人たちがいう「二人きりの世界」というものを考えると、須藤夏子は顔が熱くなるのを感じた。
「真司、もう遅いから、寝ましょう。本当に眠いの」
真司は彼女の言葉で熱意が冷めることはなく、手を伸ばして彼女をさらにきつく抱きしめ、彼女の耳たぶをつまんで眠らせないようにしながら言った。「僕たちも結婚してしばらく経つけど、どこかへハネムーンに行きたいと思ったことはある?」
「ハネムーン?あなたに時間があるの?」夏子は彼がこの話題を突然持ち出すとは思っていなかった。彼らが結婚してから、真司はほとんど毎日忙しかった。
それに彼女と真司の間には、結婚証明書があるだけで、他には何もなかった。結婚式も、家族の立会いも、ハネムーンも、そして本当の夫婦の義務も存在せず、まったく普通の夫婦ではなかったので、当然ハネムーンのことなど考えたこともなかった。
「君が行きたいと思えば、僕には時間がある」真司は彼女のこのような返事を聞いて、彼女が興味を持っていると思った。
しかし夏子は言った。「でも私は最近忙しくなりそうなの。明日から長谷米花さんに会って、歌の録音をすることになってるでしょう。それは一日や二日で終わる仕事じゃないわ」
「じゃあ、君の忙しい時期が終わったら行こう。来月、世界一周旅行に連れて行くよ」
夏子は彼が本当に旅行の計画を立てているのだと思っていたが、来月という言葉を聞いて、彼女は急に眉をひそめ、尋ねた。「真司、何か私に隠していることがあるの?」
真司は彼女の頭を撫でながら、思わずため息をつき、顔に浮かんでいた優しい笑みも少し冷たくなった。
時々、彼は彼女があまり賢くないことを願うこともあった……
「深井杏奈は確かに妊娠している。彼女と石川城太の結婚式は予定通り行われる」
夏子は何か問題があると感じていたが、このような可能性はすでに予想していたので、今は特に驚かず、尋ねた。「招待状を受け取ったの?」
「ああ、石川家の人々と深井家の両方から送られてきた」