好き。
この言葉は須藤夏子にとってまだ贅沢なものだった。
少なくとも今は。
でも彼女は西園寺真司の目上の人の前で好きじゃないと言えるだろうか?
今は好きじゃないというのが事実で、しかも彼女はまだ好きになるべきかどうか迷っていた。
彼女はすでに自分の結婚に大博打を打っていた。守れるのは自分の心だけだった。
しかし——
「義母さん、感情のことは、私自身でもよく分かりません。ただ約束できるのは、私は精一杯良い妻になるよう努力するということです」夏子は心を開くことができなかった。結局、彼女はまだ自分勝手だった。自分勝手に最後の防御を失いたくなかった。
彼女は陸橋夫人がこの言葉を聞いて怒るだろうと思っていたが、予想外にも陸橋夫人は怒るどころか、むしろ笑った。
「あなたがそう考えてくれるなら最高よ。感情というものは、確かに自分ではコントロールできないものなの。私も昔はそうだったわ。実はあなたと私の昔の経験はとても似ているのよ。私はあなたを信じているし、真司のことも信じている。彼は良い子よ、あなたはきっと彼のことを好きになるわ。彼はあなたに好かれる価値のある人だから」
夏子は、こんなに思いやりのある年上の人に出会えるとは思ってもみなかった。無意識のうちに唇を噛み、初めて自分から尋ねた。「義母さん、あなたは真司が私と結婚した理由を知っていると言いましたが、その理由を教えていただけますか?」
彼女がこの部屋に入ってきた時から、陸橋夫人は彼女に対する好意を表現することをやめなかった。陸橋夫人がなぜ彼女に優しくするのか、この点については彼女はよく分かっていた。彼らが優しくしているのは須藤夏子という人間ではなく、西園寺真司の妻だからだ。おそらく...その中にはもっと深い理由があるのかもしれない、彼女の知らない理由が。
陸橋夫人は夏子をじっと見つめ、しばらく間を置いてから言った。「なぜかは教えてあげられるけど、自分で発見する方がいいと思わない?それに義母はもうヒントをあげたわよ」
夏子はその言葉を聞いて、陸橋夫人が先ほど渡した封筒のことを思い出し、視線が急に固まった。