「まるちゃん?うん、可愛い名前ね、まるちゃんにしましょう」須藤夏子はこの名前に満足の意を示した。
一方、傍らにいた山本ママはこの名前を聞いて、顔色が妙に変わり、その後、経験豊かな目が須藤夏子に向けられ、探るような…そして信じられないような表情を浮かべた。
西園寺真司の端正な顔は沈思の中に冷たさを漂わせていたが、須藤夏子の優しく喜びに満ちた瞳に触れると、すべての感情がまた瞬時に隠されたようだった。
「これらは子犬用の物です、若奥様が他に必要なものがあるか確認してください、すぐに買いに行きます」一日姿を消していた木村弘恪と宮平一郎が、今日また影のように西園寺真司の後ろに現れ、それぞれが数袋の荷物を手に提げていた。
夏子は受け取って確認したが、実際には何が足りないのか見当もつかなかったので、「とりあえずこれで使ってみましょう、足りないものがあったらその時に買いに行けばいいわ」と言った。
弘恪と一郎は物を運ぶのを手伝い、二人同時に扉の閉まった小部屋の前で立ち止まり、躊躇した。
「旦那様、これらはどこに置けばよろしいでしょうか?」一郎が肘で弘恪をつついた後、弘恪は少し考えてから尋ねた。
真司はその閉ざされた小部屋を一瞥し、その目は再び明暗不明となり、重々しく言った。「とりあえず小部屋に置いておけ、明後日一緒に東京へ持ち帰る。それから、新居にまるちゃんのためのペット用の部屋を用意しておけ」
弘恪と一郎は顔を見合わせ、奇妙な表情を浮かべたが、それ以上は何も言わず、小部屋のドアを開けて物を中に入れた。
夏子も子犬を抱いて中に入った。
小部屋は約20平方メートルほどで、中には何もなく、ただの空っぽの部屋だった。昨日来た時には気にしていなかったが、小さなトイレだと思っていた。
しかし今、彼女はそれほど単純なものではないと感じた。先ほどの弘恪と一郎の奇妙な反応を、彼女は見逃していなかった。
「ここは物置なの?どうして家具が何もないの?」夏子は探るように尋ねた。
弘恪と一郎は慎重な表情で、夏子の質問に答える勇気がないようだった。親切な山本ママさえも異様に沈黙し、ただ物の整理に専念していた。
真司は夏子の髪を撫で、簡潔に答えた。「物置ではない、中はとても清潔だ」