「真司、やっぱり私たち協定を結びましょう」
帰り道で、須藤夏子は考えに考えた末、我慢できずに切り出した。
彼女と西園寺真司の結婚にはまだ多くの問題が存在していた。お互いに安心感が欠けているのなら、唯一の手段は協定で縛ることだ。そして今回、彼女は真司を縛るつもりはなかった……
真司はこの提案を聞いた瞬間、手が思わず震え、心の底から湧き上がる不安を抑えながら尋ねた。「どんな協定を望んでいるんだ?」
夏子は頭の中にアイデアがあるだけで、具体的にはまだ整理できていなかった。そこで言った。「まとめたら見せるわ、いい?」
真司は表情を変えず、ただ「いいよ」と答えた。
西園寺家に戻ると、夏子はパソコンの前に座って考え込んだ。
真司は覗き見ることなく、クローゼットに入って夏子のスーツケースを取り出し、その底から一つの協定書を取り出した。
それは以前、彼が夏子に署名させようとした婚前契約書だった。夏子はそれにサインしなかったが、破ることもなく、ずっとケースの底に置いたままだった。まるで存在していないようで、でも確かにそこにあった。
これは…運命のようだ。
協定書を取り出すと、真司は木村弘恪に電話をかけ、数言葉を交わしただけで切った。
二時間後、初めて協定書を書いている夏子がまだ部屋で考え込んでいる間に、弘恪はすでに新しい婚姻協定書を持ってきていた。
「旦那様、もしこの協定が有効になれば、あなたと若奥様が婚前に締結した財産協定は無効になります。もう一度お考えになりませんか?結局…これは会社の株式問題に関わることですから」
真司は夏子の言葉にどこか触発されたのか、顔に決然とした表情を浮かべて言った。「考える必要はない。自分に自信がある」
弘恪は心の中でもっと説得しようと思ったが、最終的には何も言わなかった。
夏子は一晩中考えたが、協定書はまだ半分しか書けていなかった。真司は彼女がこの時期に夜更かしすることを許さず、先に寝るよう強制した。翌朝起きると、夏子は明らかに協定のことを忘れており、頭の中は歌の録音のことでいっぱいだった。
歌唱に関しては、夏子は確かに非常に才能があった。
同じ曲の二つの異なるバージョンを、夏子はたった半日で全て録音し終え、長谷米花を非常に満足させた。あとは後処理の問題だけだった。