第365章 財布よ、頑張れ!

「いいよ、須藤夏子、この機会をあげる」

西園寺真司は彼女の目から、深い後悔の色を見て取った。

実際、彼は夏子に何かをしてもらう必要はなかった。彼はすでに与える側であることに慣れており、与える側であることを喜んでいた。以前は誰も彼に与えさせてくれる人がいなかったことに比べ、今は与えることができる喜びをより大切にしていた。

しかし、夏子が先ほど見せた態度は本当に彼の心を動かした。

そして彼は身を乗り出し、少し緊張した蜜色の唇にキスしようとした。

ところが夏子は鼻がむずむずして、突然くしゃみをした。

真司は避ける間もなく、鼻水が再び彼の服にかかってしまった。

夏子は急いで自分の鼻を押さえ、わざとじゃないと言いたかった……

真司は口角を激しく引きつらせながら、冷静に尋ねた。「さあ、これからどこに行く?」

夏子は急いで車にあったティッシュで鼻水を拭き、自分の背中が開いたドレスを見て、そして真司の彼女によって三度も台無しにされたスーツを見て言った。「まずはショッピングモールに行きましょう。違う服に着替えないと」

「服を買うの?」

「そうよ、まさか映画館にドレス姿で行くつもり?」

「君が僕を追いかけているんだから、君が払うんだよ」真司は一瞬でケチな人に変身し、今日の費用は一切負担しないと表明した。

夏子は口をパクパクさせ、この男をどう表現すればいいのか全く分からなかった!

彼女はハンドバッグを開け、中には携帯電話と口紅一本しか見当たらず、お金は一銭もなかった。少し考えてから、彼女は素早く森本千羽にメッセージを送った:緊急事態、お金を多めに持ってきて!

真司は彼女がメッセージを送っているのを見て、口元に笑みを隠しながらも見なかったふりをし、そして……彼は非常に意地悪く夏子をS&Yモールに連れて行った。

「ここは——」

夏子がS&Yモール内の高級スポーツブランドショップに足を踏み入れた時、千羽の財布が十分に厚いかどうか少し心配になった。しかし、西園寺家自身のモールなのだから、ツケにしても大丈夫だろう?

そう考えると、彼女は少し落ち着き、何事もないかのように店内に入っていった。