武田直樹は針を抜くと、車に乗り込み、助手に警察署へ向かうよう指示した。
彼は手の中の細い銀針を見つめ、背筋が寒くなるのを感じた。
美智はこんな技術を持っていたのに、今まで彼に使ったことはなかった。彼女の慈悲に感謝すべきなのだろうか?
美智はすでに警察署に入っていた。彼女は当事者ではなかったため、簡単な質問を受けただけで終わった。
美智は顔を上げて尋ねた。「小島警官、犯人はどのくらいの刑になりますか?」
「共犯者たちは刑を科すのが難しいでしょう。最大でも7日間の拘留で釈放されます。結局、被害者に軽傷を負わせただけですから」
「では主犯は?私の祖母を殴った人物は?」
「まだ取り調べ中です。彼は針で刺されて痛かったから、とっさに被害者を殴っただけだと主張しています。医師の報告書も確認しましたが、あなたのお祖母さんの怪我は確かに一箇所だけです」
美智の目が赤くなった。「でも、祖母は彼に殴られてほとんど死にかけたんです!」
小島警官はため息をついた。「わかっています。しかし、この犯人には精神鑑定の報告書があり、精神疾患を抱えているようです。おそらく刑を科すのは難しいでしょう」
美智は呆然とした。「彼は精神病なんですか?」
「はい」
なんてタイミングなんだ!
「彼に会うことはできますか?」
小島警官は少し躊躇した後、頷いた。「ちょうど彼の弁護士も来ていますし、あなたを会わせても規則違反にはなりません。行きましょう」
二人が部屋を出ると、外で待っていた武田直樹が目に入った。
美智は彼を見なかったふりをした。
しかし小島警官は無視するわけにはいかなかった。「武田社長、あなたもいらしたんですね」
直樹は二人が近くに立っているのを見て不快に感じた。「どこへ行くところだ?」
小島警官は二人が夫婦だと知っていたので、隠さなかった。「橋本さんをお連れして、彼女のお祖母さんを殴った犯人に会わせようと思っています」
直樹は頷いた。「ああ、私の祖母も怪我をしたんだ。私もその首謀者に会うつもりだった。一緒に行こう」
美智はようやく彼を見た。
この首謀者は彼女の祖母を殴っただけで、武田の祖母は殴っていない。武田の祖母は他の暴徒に怪我をさせられたのだ。彼は何を見に行くというのだろう?
しかし、結局彼女は何も言わなかった。