美智は武田直樹が突然彼女にキスしたことに少し変だと思ったが、彼の行動はまだ何とか説明できる範囲内だった。
明らかに橋本櫻子の方がおかしかった。
彼女は遠慮なく言った。「どうしたの?私の夫が私にキスしただけで、あなたに説明しなきゃいけないの?そんな質問をするなんて、あなた自身が滑稽だと思わない?」
櫻子は歯を食いしばった。「ただ知りたいだけよ、あなたたちはまだ離婚するつもりなの?」
「離婚するかどうかは、あなたには全く関係ないわ。もう一度警告するけど、武田直樹に近づかないで。彼はいい人じゃないわ。わからない?」
櫻子は黙って立ち尽くし、突然涙がこぼれ落ちた。
そして、彼女はドサッと美智の前にひざまずいた。
美智は彼女に驚いた。「何をしているの?」
「いとこのお姉さんに一つだけチャンスをお願いしたいの。たとえあなたが義兄さんと離婚しなくても、私に義兄さんと接する機会をください。義兄さんが外に女性がいるなら、私が一人増えても大したことないでしょう?いいでしょう、お姉さん?」
美智はもともと彼女を助け起こそうとしていたが、この言葉を聞いて、差し出した手をゆっくりと下ろした。
彼女は唇の端をゆがめ、皮肉に思った。
「本当に目を見開かされたわ。男性の愛人になることを跪いて頼む人がいるなんて、しかもそれが自分のいとこの夫だなんて。」
「義兄さんは普通の男性じゃないわ。愛人がいても当然でしょう、お姉さん。助けて、お願い、お姉さん、助けて。」
美智は首を振った。「あなたはもう狂ってる、もう道理が通じない。橋本家の年長者たちは礼儀や恥を教えなかったのね。あなたの行動は何度も私の想像を超えてくる。」
「私はただお姉さんから学んでいるだけよ。お姉さんだって武田家の栄華と富を見込んで嫁いだんでしょう?私の生活が少しでも良くなるように願うのは、悪いことなの?」
「だから、義兄さんの愛人になりたいの?世の中には男性がたくさんいるわ、武田直樹だけじゃない。彼と付き合えば、お金をくれると思わないで。彼はとても吝嗇だから、あなたは何の得もないわよ。」