ボディーガードは動じなかった。「ダメです!」
冗談じゃない。もし彼らが見知らぬ女性を簡単に社長の車に乗せるようなことをしたら、この仕事は終わりだ!
美智さんでない限り、誰が来ても無理だ。
社長が女性に興味を示さないという噂は嘘ではない。彼は本当に冷酷で女性に興味がないのだ。以前、何人もの女優が彼を誘惑しようとしたが、成功した者は一人もいない。
目の前のこの女性は、確かに少しは美しいが、女優たちと比べればはるかに劣る。
橋本櫻子はボディーガードの冷淡な態度を見て、少しがっかりした。今日はもう武田直樹と話すことはできそうにない。
彼女もしつこく迫るわけにはいかなかった。イメージを損ね、直樹に悪い印象を与えてしまうかもしれないからだ。
彼女は不満を抱えながら立ち去るしかなかった。
美智の家に戻ると、武田家の老夫人が美智の手を取って話しかけている姿が目に入った。まるで彼女を本当に可愛がっているかのようだった。
櫻子は拳を握りしめ、心の中で誓った。いつか自分も老夫人に気に入られるようになり、武田家に嫁ぐ可能性を高めるのだと。
結局、当初は老夫人が美智をとても気に入り、孫に彼女との結婚を強く勧めたのだから。
しばらくして、沢田苗子が疲れた様子を見せると、老夫人はようやく帰ることにした。
外に向かう時も、美智は相変わらず老夫人の腕を支えていた。
櫻子はそれを見て、すぐに前に出て、老夫人のもう一方の腕を支えようとした。
しかし老夫人は彼女に支えさせようとせず、美智の腕を引いて素早く階段を下りていった。その足取りの軽さは、まるで老人とは思えないほどだった!
櫻子は老夫人が階下に降りたら、直樹が車から出てくるだろうと思っていたが、彼は車の中で動かず、知らない人が見たら、この老夫人が彼の祖母だとは思わないだろう!
彼は美智よりも孝行とは言えないようだ。
やはり噂通り、冷たい男なのだ!
一同が老夫人の乗った車を見送ると、窪田梅子はまた皮肉っぽく言い始めた。「まあ、奈々子や、あなたは本当に孝行ねえ。武田家のお婆様をあんなに細やかに世話するなんて。」
美智は冷静に彼女を見つめた。「老夫人はここ数年ずっと私を気にかけてくださいました。恩返しとして、当然お世話するのは当たり前です。」