ついに離婚した!

「鈴木瑠璃(すずき るり)、離婚しよう」

柔らかなソファに身を沈めた男は、長い脚を組み、冷たい表情のまま、向かいで俯く女性をじっと見つめていた。やがて、手にしていた書類を音もなく彼女の前へと差し出す。

瑠璃は何も言わず、黙って書類を受け取った。そこに記された「離婚」の二文字が、じわりと胸に突き刺さる。書類を握る指先が、かすかに震えた。

陸田謹言(りくた きんげん)は相手の感情になど一切頓着せず、腕を組んだまま、無関心そうに半ば目を閉じていた。

瑠璃はゆっくりと協議書をテーブルに置き、上げた瞳で男をじっと見つめた。頬を伝う涙をこらえながら、震える声で問いかける。「謹言…どうして?私たち、うまくいってたはずなのに──」

「うまくいってた、だと?」謹言は眉間にしわを寄せ、唇の端をわずかに吊り上げて、冷笑を浮かべた。「それは、お前の勝手な思い込みだ。祖母の命令がなければ、俺がお前なんか娶るはずがない」

「この一年、一緒に暮らしてきて…私に、少しの感情も湧かなかったの?」瑠璃は目の前の背の高い美しい男をじっと見つめ、かすかな希望の光を瞳に宿した。そのまっすぐな想いのこもった眼差しは、石さえも動かすほどの力を秘めていた。

謹言は腕時計にちらりと目をやり、苛立たしげにネクタイを緩めた。「…ない」

「お前みたいな、令嬢という枠に縛られた退屈な女に――」謹言は冷ややかな視線で瑠璃を見下ろし、容赦なく彼女の幻想を踏みにじった。「俺は、一片の興味すら抱いたことがない」

瑠璃の目に溜まっていた涙が、ついに堪えきれず頬を伝い落ちた。きらりと光る二筋の涙がその白い頬を流れ、見る者の胸を締めつけるほどに、痛ましく映った。

「もう見終わったのか?」謹言は再び腕時計をちらりと確認し、瑠璃のしつこさに呆れたように応じた。「見終わったなら、さっさとサインしろ」

空気が一瞬凍りついた後、瑠璃は微かに頷き、肩の力を抜いて小さく息を吐いた。「…わかった」

男の緊張した表情がわずかに緩み、体をソファの背もたれにゆったりと預けた。冷ややかな視線で瑠璃を見つめるその漆黒の瞳には、一片の温もりも宿っていなかった。

白く細い手が書類を取り、瑠璃はざっと目を通した。財産分与の項目に目を留めると、特に自分が受け取る不動産や株式の欄を見て、思わず目を見開いた。指先に力が入り、紙をぎゅっと握りしめ、関節が白くなる。まるで信じられないという表情だった。

謹言は、彼女がなかなかサインしないのを見て、冷たい視線でじっと顔を見据え、嘲笑を漏らした。「どうした?まだ嫌なのか?」

言葉が終わる前に、瑠璃はすでに素早くペンを手に取り、迷わずさっとサインをして、きっぱりと謹言に差し出した。

先ほどとはまったく異なる反応に、謹言はわずかに眉をひそめた。差し出された書類を見下ろしながらも、その視線は瑠璃の白磁のように透き通る手に留まった。

謹言はどれほど令嬢のような作り笑いを嫌っていても、幼い頃から裕福に育てられた瑠璃が、頭の先から足の先まで洗練されていることだけは認めざるを得なかった。彼女の指先ひとつさえ、外の普通の女性とは比べ物にならないほど目を惹いた。

「いつ引っ越すの?」瑠璃は俯いたまま、目尻を赤く染めて涙をこらえ、そっと目をこすりながら肩を微かに震わせた。

「できるだけ、早く…」

目的は果たされた。謹言は悟られぬよう視線を逸らした。彼女がどれほど悲しもうと、これから先、彼とは一切関係がなかった。

謹言は自分の分の協議書を手に取り、ゆっくりと立ち上がって歩き出した。

男の姿が視界から消えていくのを見届けると、先ほどまで涙を流していた女性の表情が一瞬で輝きを取り戻した。赤い唇が微かに持ち上がり、目尻には抑えきれない笑みが浮かぶ。彼女は手元の協議書を投げ捨て、いい加減な態度を露わにした。

立ち上がって大きく伸びをし、意気揚々と部屋の豪華な調度品を見渡す。瑠璃は、世間知らずの貧しい身でありながら、幸福の涙を静かに流した。

ついに…

離婚が成立した!