これこそが――彼女がここまで生き抜いてきた、勝利の証だった!!
U字型の壁一面に埋め込まれた個人用ワインセラー。足元には、海外のオークションで高額落札された、収集価値の高い純手工芸のカーペットが広がる。壁には、北欧風のクラシックな鹿の頭の装飾が静かに飾られ、その控えめな存在感が上品な気配を漂わせていた。いずれも、持ち主の洗練された趣味と揺るぎない地位を雄弁に物語っていた。
瑠璃は自分のためにワインを一杯注ぎ、艶やかに揺れる赤い液体をグラスの中でそっと回した。ゆっくりと立ち上がると、床から天井まで続く大きな窓へと歩を進める。その視線の先には――夫、いや、今は“元夫”と呼ぶべき男が、ひとりの少女を優しく抱きしめている姿があった。少女は彼の腕の中に飛び込み、男は穏やかな微笑みを浮かべて彼女を包み込んでいた。
若く、まるで清純な白い花のような少女、楚田汐(そた しお)。
少女の墨のように黒い長い髪は、柔らかく肩に垂れかかり、膝丈の白いドレスは飾り気のない中にも優雅さを湛えていた。彼女は男性の腰にそっと腕を回し、無邪気な大きな瞳で笑みを浮かべながら、目の前の謹言を見上げていた。
二人が車に乗り込み、ゆっくりと視界の外へと消えていくのを見送りながら、瑠璃はワイングラスを鼻先に近づけた。芳醇な香りが鼻腔をくすぐり、静かに目を細める。
瑠璃には、高級ワインと普通のワインの違いなど正直よく分からなかった。けれどそれは、気分よく味わうことの邪魔にはならなかった。
この世界に来てから、もう一ヶ月が過ぎていた。
ある日、瑠璃は気づいてしまった。自分が、あの陳腐な浮気劇の小説の中に入り込んでしまったのだと。しかも、その物語の主人公の名前は――奇しくも、彼女自身と同じ「瑠璃」。だからこそ、読んだときの印象が妙に強く残っていたのだ。
どんな古臭い社長モノの小説でも、男性主人公は決まって手のひらを返すように態度を変え、資産が数兆円なければ“社長”と名乗る資格すらない。だからこそ、その背後にある陸田家がどれほど強大かは、言うまでもなかった。
陸田家の祖母が危篤に陥り、病床で最後に望んだのは――孫・謹言が、名家の令嬢・瑠璃と結婚することだった。謹言はその願いに逆らえず、望まぬまま、鈴木家との政略結婚を受け入れることになった。
結婚式では終始不機嫌な表情を崩さず、結婚してからの一年間、瑠璃は彼の前でまるで透明人間のように存在感を失っていた。
優れた浮気もの小説では、作者は常に活発に動き回る白蓮の女性キャラクターを生み出し、男性主人公の初恋の相手として配置していた。
一年後、祖母の病状が好転すると、謹言は初恋の女性と結ばれるため、何度も瑠璃に離婚を迫った。しかし、主人公である瑠璃は彼を本当に愛していたため、初恋の女性に陥れられ、腎臓を一つ摘出され、声を奪われても、決して離婚に同意しなかった。
初恋の女性の挑発によって、謹言の瑠璃への誤解と嫌悪はますます深まっていった。
父親が投獄され、主人公は深い失望を重ね、ついに暗澹たる思いで去っていった。その後、誤解が解けた男性主人公はようやく悔い改め、自分がずっと愛していたのは主人公だけだったと気づく。そこから、妻を追いかけるまるで火葬場のような激しい展開が始まる。
最後の結末は当然のように、男性主人公が深く後悔し、彼女を探し求める展開となった。主人公は心を開いて許し、二人はついに幸せな結婚式を挙げるのだった。
若くて無知だったあの頃、瑠璃は二人の愛のために本物の涙を数滴こぼしたこともあった。けれど今、振り返ってみると――
瑠璃は心の中でこう思った。「主人公ってバカじゃない?お金も美貌もあって、いわゆる白い富裕層の美女なのに、こんなに恵まれた条件があるのに、どうしてわざわざ自分を苦しめるの?」
もし天が彼女にこのような機会を与えたのなら、彼女はきっと、元の主人公に代わって人生を存分に楽しみ尽くすつもりだった。
この世界に来てからの一ヶ月は、ちょうど初恋の人・汐が帰国し、祖母の病状がやや好転した時期と重なっていた。
今夜は謹言が初めて離婚を切り出した夜だったが、瑠璃は思いのほかあっさりと同意した。ただ、彼女が予想していなかったのは、謹言の寛大さだった。彼女に与えられた財産は、一般市民が何世代にもわたって贅沢に暮らせるほどの額だった。
瑠璃は内心で喜んだ――一夜にしてすべてを手に入れたのだ。これこそが、おそらく富豪の喜びなのだろうと。
金銭の柔らかな光に包まれて目覚めるのも惜しいほど、瑠璃は心地よい気分だった。離婚協議書を見る彼女の目尻には薄桃色の色香が漂い、媚びるような微笑みを浮かべて言った。「陸田社長、ご安心ください。私は絶対に遠くへ行って邪魔したりしませんから」