第196章 私の姉は一人だけ

夜、とある大型ディスコ。

眩しい照明と耳をつんざくような音楽が鼓膜を刺激し、美男美女たちがダンスフロアで思い切り魂を解き放っていた。

このディスコのオーナーは、芸能界から引退して久しい女性実業家の藤原微。ここに訪れる客のほとんどは業界関係者だった。

白石塵はここの常連で、偽りの完璧な人物像を脱ぎ捨て、すっかり羽目を外していた。

振られたサイコロが空中で数条の残像を描き、パッと小山星河の前のテーブルに置かれた。

「大か小か!!」

星河は無視して、体を後ろに預け、心ここにあらずといった様子で視線を逸らした。

人影がちらりと動き、隣のソファが少し沈んだ。

メイクの施された艶やかな女性タレントが星河の隣に座り、満面の笑みで手を差し出した。「こんにちは、星河さん……ご挨拶を」

塵はすでに星河の引き立て役になることに慣れていて、紹介した。「星河、こちらは季田雅子先輩だよ、芸能界で人気の四大玲の一人だ!」

星河は物憂げに「うん」と返した。「こんにちは」

雅子は差し出した手を気まずそうに下ろし、諦めきれない様子で「星河さん、一緒にダンスしませんか?」と誘った。

星河は「すみません、あまりダンスは得意じゃなくて」と断った。

雅子の顔から上品さが少し崩れた。「そう……わかりました」

人気女優が慌てて去っていく姿を見て、塵は驚いて言った。「星河、相手の面子を全く立ててないじゃん!あれは一線級の玲だぞ!」

アイドルとして、どうしてダンスができないわけがあるだろうか?

これは明らかに雅子に「俺はお前に興味ない」と伝えているようなものだ。

「でもさ、兄弟として正直羨ましいよ!俺がデビュー前の頃なんて、こういう女優たちは鼻高々で相手にもしてくれなかったのに、お前の顔はどれだけイケてるんだよ!」

塵がまだ延々と愚痴っている間に、また二人の化粧の施された女性タレントが連れ立ってやってきた。

「あなたが木村劇場の練習生の小山星河さんでしょ!」

照明が暗くなり、星河は唇を引き締め、漆黒の瞳の奥に感情を隠した。

二人はくすくす笑いながらソファに座り、少年を見る目には好奇心と品定めの色が隠されていた。

はっきりとした彫りの深い顔立ちを間近で見て、瞳孔が広がり驚きを隠せない様子……