約二十分ほどかかってようやくコピーが終わり、安瑠は書類を丁寧に整理・分類してから、コピー室を後にした。
急ぎの用件だったため、安瑠はコピーした書類を抱え、軽やかでありながらも素早い足取りでオフィスへと急いだ。
安瑠がオフィスに足を踏み入れた瞬間、またしても不運が彼女を襲った。再び誰かとぶつかってしまったのだ。
安瑠は書類を抱えたまま一歩後退し、体勢を整えた。朝の教訓で警戒心が高まっていたとはいえ、初出勤日に二度も人とぶつかるとは、いったい何という巡り合わせなのだろうかと呆れた。
「いたっ!」ぶつかった相手は、抱えていた書類を床に落とし、痛む腕をさすりながら顔を上げた。そして、ぶつかった相手がまたもや安瑠だと分かると、ニロは即座に怒りを露わにした。
「またあなた?!」ニロは素早く立ち上がり、怒りで息が荒くなり、胸が大きく上下していた。「一日に二回もぶつかるなんて、わざとでしょ?!」
会社はこんなに広いのに、どうしていつもこの女とぶつかるんだろう?
安瑠も驚きを隠せず、口角を何度かピクピクと動かしながら、困惑した表情でニロを見つめた。今日はついていない日だと心の中で呟きつつ、一日に同じ女性に二度もぶつかるなんて、相手が怒るのも無理はないと感じていた。
「すみません、拾いますね」安瑠は淡々とそう言い、言い訳せずに床に散らばった書類を見つめてしゃがみ込み、一枚一枚丁寧に拾い集め始めた。
ニロは鼻から重々しく「ふん」と息を吐き、内心では怒りが燃え盛っていた。もともと朝の件の仕返しに安瑠にぶつかろうと狙っていたのに、うまくいかず、さらにデザイン画まで散らばせてしまい、気分は一向に晴れなかった。
彼女は知らなかったが、安瑠はかつて数年間にわたり柔道と跆拳道を学んでおり、一般の人とは比べ物にならない強さを持っていた。
安瑠が床に散らばった図面を拾い集めていると、その中の一枚にふと目が止まった。
このデザイン案のコンセプトは非常に斬新で、スタイルも独創的だった。しかし唯一の欠点は、指輪のスケッチに描かれた台座部分で、このデザインでは宝石をはめ込んでも簡単に外れてしまう恐れがあった。
そうなると、どれだけ宝石をしっかり埋め込んでも、わずかな衝撃や揺れで外れてしまうだろう。
「このデザイン画、誰が描いたんですか?ここに問題があります」安瑠は問題のある部分を指さしながら、親切にニロに注意を促した。
ニロは不機嫌そうに拾い上げたデザイン画を片付けながら、安瑠が持つ図面にちらりと目をやり、すぐに目をそらした。「問題があるのはむしろあなたじゃない?これは私たちの首席デザイナーの作品よ。あなたが問題があると言うなら、それが問題なの?返して、返して」
そう言うと、ニロは安瑠の手からデザイン画をすべて奪い取り、そのまま立ち上がって外へと歩き去った。
「ちょっと待ってください…」安瑠は慌ててニロを追いかけ、声をかけた。宝飾のデザインに携わる者として、特に翡翠のような大企業であれば、こうしたミスは到底許されるものではない。ましてや首席デザイナーならば、問題があれば自らの名誉を汚すことにもつながるはずだ。
安瑠はしばらく考えた後、コピーを依頼した人物に複写した書類を手渡し、そのまま部長のオフィスへ報告に向かった。
彼女がオフィスを出ようとしたその時、制服のポケットに入れた携帯電話が鳴り響いた。その一声一声が緊迫感を帯びており、オフィス内の誰もが彼女に視線を向けた。仕方なく安瑠は携帯を取り出し、そっとオフィスの外へ出て電話に応じた。
「もしもし…」
「安瑠、あなた武内さんにお願いしに行ったの?今朝、あなたの叔父さんが急に入院したのよ。もし武内さんが買収を撤回してくれなければ、星辰は本当に終わってしまうわ。あなた、そのことわかってるの?」