安瑠は手についた埃をそっと払いのけ、ほっと息をついた。そして床まで届く窓のガラスにそっと頭を寄せ、カーテンの隙間から見えないように、少しずつ身を移動させていった。
彼女は足音を立てないよう慎重に身を動かし、小さな頭をそっと覗かせて中を見た。そこには、ソファに腰掛け、片手で額を軽く支えながら、もう一方の手に持った書類に集中して真剣に目を通す衍の姿があった。
彼の頭上にはスワロフスキーのクリスタルシャンデリアが輝き、温かな黄色い柔らかな光を放っていた。その光はまるで蝉の羽のように薄く繊細な層となって彼の身体を包み込んでいる。彼の周囲の空気は氷のように冷たく厳かで、水のように淡々としていたが、この柔らかな光がわずかに穏やかさを添えていた。
彼の横顔はわずかに安瑠の方を向いており、その輪郭は冷たく硬く、はっきりとした角ばりを見せていた。横顔だけでさえ、近づくことを許さず遠くから眺めるしかない距離感を漂わせているが、それでもまるで一枚の絵画のように美しく、目を離せないほどだった。
安瑠は一瞬呆然とし、無意識に深呼吸をして心を落ち着けようとしたその時、衍に気づかれてしまった。
「誰だ?」衍は常に警戒心を強く持っており、周囲に他人の気配を感じ取ると、手にしていた書類を「パン」とクリスタルのテーブルに叩きつけて立ち上がった。深く黒い瞳はバルコニーの方向を真っ直ぐ見据え、ぴたりと安瑠の居場所を捉えていた。
ああ、もう!ただ深呼吸しただけなのに!
しかし、彼に見つかろうが、自分から近づいて見つかろうが、本質的には変わらない。だから安瑠は躊躇せず、堂々と床まで届く窓の後ろから現れ、小さな手を振りながら八本の歯を見せて衍に笑いかけた。「今夜の月、とても綺麗ですね〜」
しかし男の表情は、彼女の言葉で和らぐことはなかった。濃く剣のように鋭い眉をひそめ、顔色は恐ろしいほど冷たく沈んでいる。深い瞳は底なしの湖のように澄み、左目の下の涙ぼくろが一層の魅惑を添えていた。彼は冷たい声で問いかけた。「誰の許可を得て入った?」
「それは…天が私に入るよう命じたと言ったら、信じますか?」安瑠は冗談めかして言い、目を細めて狡猾な光を瞳に宿した。
「ふん」衍は軽く鼻で笑い、細い目をさらに細めた。半ば上がった口角からは、皮肉を帯びた笑みがこぼれる。彼の周囲には柔らかさの中に冷たさが漂い、人を圧倒する威圧感があった。「なら、今すぐ出て行け」
出て行けだって?
私が苦労して入ってきたのは、ただ入って一周回って出て行くためじゃない!
安瑠はもう開き直った。衍を取り囲む警備隊はあまりにも手強く、近づく隙などまったくない。今日が唯一のチャンスだ。彼女はそのチャンスを逃すわけにはいかなかった!
「あなたと話がしたいんです。話が終わったらすぐに帰ります!」安瑠は素早く一歩前に出て衍の前で止まり、きりっとした表情で顎をわずかに上げた。一見怖気づいていないように見えたが、実際には手のひらに汗が滲んでいた。
「俺はお前と話すことなど何もない」衍は細めた目を彼女からそらし、冷たく魅惑的な声を低音の赤ワインのように響かせたが、その言葉は冷酷で心を凍らせるものだった。「自分で出て行くか、それとも俺が人に放り出させるか、どっちがいい?」
「たった五分だけでいいんです。絶対にあなたの邪魔はしません!」安瑠は五本の指をそっと立て、愛らしい小さな顔に真剣な表情を浮かべた。
衍は眉間に深い皺を寄せ、両目には危険な光が宿って人を威圧した。彼はゆっくりとクリスタルテーブルの上に置かれた固定電話に向かって歩き出した。
安瑠は彼のその動きを見て、すぐに彼が何をしようとしているのか理解した!