「安瑠、そんなにチョコレートを食べたらおばさんに怒られるよ」武内衍は満足げな顔をした永川安瑠を見ながら、腕を組んで眉を上げて言った。
「うぅ、どうしよう?おじちゃんはママに言っちゃうの?」安瑠はようやく自分がたくさんのお菓子を食べてしまったことに気づき、小さな口を尖らせて、哀れっぽく彼を見つめた。
衍は軽く鼻を鳴らし、彼女に手を差し出した。「ポケットに隠してるお菓子、全部出しなさい」
安瑠はすぐに膨らんだポケットを両手で抱え込み、大きな目に涙を浮かべた。「これは暁が姉ちゃんに無理やり食べさせようとしたの。安瑠が勝手にママの箱から取ったお菓子じゃないよ!」
まさに今のようなシーン。お菓子の出所を必死に説明し、自分の食べ物を守ろうとするが、食いしん坊の本性を露呈してしまう。
衍は薄い唇を引き締め、目の前の安瑠を見つめると、何年も前の彼女と重ね合わせずにはいられなかった。深い瞳に柔らかな光が宿る。「食べなさい」
え?
安瑠は固まった。今の聞き間違いじゃない?衍が彼女のお菓子を捨てずに「食べなさい」と言った?
疑問に満ちた安瑠の瞳を見て、衍は何も説明せず、階段を上がり始めた。
安瑠は三つ目の箱を開けると、様々な色や形のキャンディが入っていた。懐かしいデザインと味に、安瑠は一瞬たじろいだ。
記憶の中の景色が目の前の光景と重なり、まるで昨日のことのように鮮明に蘇った。
「武内衍」安瑠は突然声を上げて衍を呼び止めた。「これ、あなたが用意してくれたの?」
衍の足取りが一瞬止まった。安瑠に背を向けたまま立ち、端正な顔に不自然な表情が浮かぶ。声は相変わらず冷静だった。「君みたいに暇じゃないんだよ」
そう言うと、躊躇うことなく歩き去った。
彼女がどこで暇なの?
衍以外に、こんなキャンディがどこで買えるか知っている人はいないはずでしょ?
安瑠は箱からミルクキャンディを取り出し、口を尖らせて何かつぶやくと、箱を持ってとことこと階段を上がった。
……
「ボス、ご指示通り黒幕を突き止めました」橋本南は書斎に入り、一束の資料を手に持って衍の前に置いた。
衍は机の上の資料をちらりと見て、足を優雅に組み、コーヒーカップを持つ姿は洗練されていて、気取らない優雅さを漂わせていた。
「どうだ?」