しかし、会場は静まり返り、武内衍が一向に壇上に上がる気配がなかった。
司会者は武内衍が聞こえていないのだと思い、もう一度繰り返して数分待ったが、それでも誰も壇上に上がってこなかった。
永川安瑠の顔に浮かぶ完璧な笑顔に、崩れかけの兆しが見え始めていた。会場の人々が彼女を見る目も次第に奇妙になり、ひそひそと私語を交わし始めた。
時折、耳障りな囁き声が安瑠の耳に届き、彼女の心を苦しめた。
衍はどこ?
安瑠の視線は間違いなく衍が座っていた場所に向けられ、ピンク色の唇を固く結び、思わずマイクを握りしめた。
そして、彼女は長身の影が席から立ち上がるのを見た。遠くからでも、安瑠はほっと胸をなでおろした。
会場の人々も議論を止め、息を詰めて立ち上がった衍を見つめ、彼が壇上で何か言うのを期待していた。
しかし、皆を驚かせたのは、衍が壇上に上がらなかったことだった。あの細長く深い黒い瞳で壇上の安瑠を数秒見つめた後、彼はためらうことなく背を向けて去っていった。一瞬の躊躇もなく。
これは安瑠の顔に公然と泥を塗るような展開だった!
安瑠だけでなく、席にいた安暁たちも困惑し、なぜ衍が突然立ち去ったのか理解できなかった。あまりにも奇妙だった。
安瑠の小さな顔は、衍が背を向けた瞬間から完全に青ざめ、去っていく背中を信じられない思いで見つめ、心は乱れに乱れた。
衍がなぜ去ってしまったのか?どうして彼女をこんな時に一人にできるのか?
「今回の新進デザイナー、裏があるんじゃないの?この年齢じゃ実力があるようには見えないけど」
「そうよね、でなきゃ武内社長がひと目も見ずに立ち去るわけないでしょ?きっと社長もこの新進デザイナーを認めていないのよ」
「ふん、見た目は狐のように媚びた顔してるし、この地位は体を売って手に入れたんじゃない?ハハハ」
「武内社長も美人に情けをかけないなんて。気に入らないなら私に回してくれてもいいのに…」
「見た目だけね、見た目だけ!」
「……」
会場では様々な議論が交わされ、時折耳障りな声が安瑠の耳に届いた。彼女は小さな手を握りしめ、まるで道化師のように一人芝居を演じ、これらの人々に笑い者にされているように感じた。
彼女は屈辱に唇を噛みしめ、心は氷の窟に置かれたかのように極限まで冷え切っていた。