車内は静まり返っていた。誰も誰にも話しかけなかった。
藤原邸に到着すると、千早はようやく深谷家の人々も来ていることに気づいた。
結婚して三年、二つの家族が一緒に食事をすることはめったになかった。
結局のところ、階級の違いがそこにあった。
藤原家は蓮城の富豪であり、正真正銘の名門の家系だった。お金があるだけでなく、骨の髄まで他人より優れているという気品が漂っていた。
一方、深谷家は蓮城では名の知れた家ではなく、ここ数年は経営が衰退する一方だった。
「お帰りなさい」宴司の母親である小林百合(こばやし ゆり)が声をかけた。
二人はソファの前に歩み寄り、丁寧に年長者たちに挨拶をした。
その時、ソファに座って行儀よく大人しくしていた深谷夕遅(ふかや ゆうち)が自ら立ち上がり、千早の手を親しげに取った。「お姉さま、久しぶりね。会いたかったわ」
そう言いながら、宴司にも甘く微笑みかけた。「義兄さんは相変わらずハンサムですね」
宴司は顎をわずかに動かし、冷淡に挨拶を返した。
千早も形だけの笑顔を浮かべた。
一行はダイニングルームへと向かった。
誰にも見られていない場所で、千早はさりげなくナプキンを取り、丁寧に手を拭いた。
宴司が何気なく振り返ったときに、それを目撃した。
千早は宴司の視線に気づいても平然としていた。
全員がテーブルに着いて夕食を食べ始めた。
食事の間、百合が口を開いた。「千早、お腹の動きはある?」
毎回帰るたびに避けられない尋問だった。
「ありません」
「結婚して三年なのに、どうしてまだなの?」百合の口調は不機嫌だった。
千早は沈黙を保った。
月に一度だけで、しかも宴司は完璧に避妊しているのに、どうやって妊娠できるというの?豚かごに浸からないと妊娠できないわよ!
それに、もう離婚するのに、何の妊娠よ?
他の女に太った孫でも産ませればいいじゃない!
「私たちのことは、私が考えておく」百合が怒り出しそうになった瞬間、宴司が突然口を開いた。
「宴司……」
「もういい、家族がようやく揃ったんだから、まずは食事をしよう」宴司の父親である藤原正陽(ふじわら まさはる)が遮った。声は厳しかった。
百合はぐっと堪え、それ以上は言わなかった。
「義兄さんはお姉さまにとても優しいわね。いつも守ってくれて、羨ましいわ」少し気まずい雰囲気の中、夕遅が突然笑いながら言った。「私もいつか義兄さんのような素敵な男性に出会えるかしら」
誰も彼女に反応しなかった。
夕遅はまた独り言のように続けた。「類は友を呼ぶというでしょう?義兄さんのような優秀な人の周りには、きっと優秀な人ばかりいるはず。義兄さん、私に彼氏を紹介してくれませんか?」
「できない」宴司はきっぱりと断った。
夕遅は顔を赤らめた。
夕遅の母親である香山虹(こうやま にじ)はすぐに場の雰囲気を和らげようとした。「宴司さんはお忙しいのに、どうして彼氏なんて紹介する時間があるの?!宴司さんは藤原グループを出て、自分のジュエリー会社を立ち上げたって聞いたわ。本当に若くして成功されているのね」
口調は完全におべっかだった。
しかし宴司はそれに応えず、まったく反応を示さなかった。
藤原家の人々も高慢で、誰も進んで虹に助け舟を出そうとはしなかった。
「そういえば」虹も負けず嫌いで、少しも気まずさを感じていないようだった。彼女はまた自然に話を続けた。「藤原蘭ジュエリーが今デザイナーを募集しているって聞いたわ?」
宴司は軽く返事をした。
虹は明らかに興奮して言った。「ほら、ちょうどいいじゃない?夕遅は先日、国際スターカップのジュエリーデザインコンテストで世界第5位という栄誉を獲得したのよ。アジアでトップ10に入ったのは、たった二人だけなのよ」
「一位もアジア人じゃなかった?」千早がさりげなく言った。
虹の表情が少し変わったが、事実なので反論できなかった。
「お母さん、もういいわ。お姉さまが不機嫌になるわよ」夕遅は親切そうな顔をしていたが、実際は皮肉を言っていた。
「自慢しているわけじゃないのよ」虹は親切そうに説明した。「千早、気にしないでね」
「気にしてないわ。確かにそれは自慢するようなことじゃないもの」千早は淡々と言った。
「……」虹は千早に言い返されて言葉に詰まった。
彼女は唇を引き締め、この死にたい娘のせいで今夜の大事な話が台無しにならないようにした。
彼女は再び本題に戻った。「宴司さん、夕遅はどうかしら?彼女は今、国内で引く手あまたなのよ。多くのジュエリー会社が彼女を欲しがっているけど、彼女はすべて断ったの。彼女が行くなら藤原蘭ジュエリーだけ、助けるなら自分の家族だけだって言ってるわ」
だから今夜、深谷家が進んで藤原家を訪ねて食事をしたのは、夕遅を藤原グループに押し込むためだったのか?!
言い方はとても良かった。
「助ける」と。
つまり、夕遅が藤原蘭ジュエリーのデザイナーになれるのは、宴司の光栄なことだと言いたいわけだ。
「必要ありません」宴司は再び断った。
虹の笑顔は一瞬で凍りついた。
虹がどれほど厚顔無恥でも、もはや体面を保つのは難しかった。
隣にいた夕遅の表情も目に見えて悪くなった。
「藤原蘭ジュエリーは妥協しません」
宴司のこの言葉は、さらに人を傷つけるものだった。
「宴司さん、どういう意味ですか?夕遅は世界第5位、アジア第2位なのよ」虹はついに我慢できず、反論した。
「だから私が求めているのは世界第1位です」
千早は元々、宴司のこの情緒に欠ける性格が嫌いだった。
しかしこの瞬間、それもいいかもしれない、もっと発揮してもいいと思った。
虹の顔は赤くなっていた。
夕遅は唇を噛みしめ、こんな屈辱を受けるとは思っていなかった。
彼女はもともと千早の前で自慢するつもりだった。
千早は明らかに何の取り柄もないのに、宴司のベッドに上がったからこそ、宴司と結婚できたのだ。
彼女は宴司が千早に対しても妥協しているだけだということをよく知っていた。
とにかく香織でなければ、誰でもよかったのだ。
彼女が怒っているのは、なぜ自分ではないのか?!
彼女はこんなに優秀なのに、なぜ当然の幸せを得られないのか?!
彼女は苦労して大賞を取り、この方法で自分を証明しようとしたのに、当然の栄誉を得るどころか、このような屈辱を受けた。
夕遅は目が赤くなるほど怒っていた。
さらに腹立たしいことに。
彼女が顔を上げた瞬間、千早の口角がわずかに上がっているのを見た。明らかに彼女を嘲笑っていた!
千早に彼女を嘲笑う資格があるのか?!
所詮は地位もない専業主婦に過ぎない。
いつか必ず千早を足の下に踏みにじり、何度も踏みつけてやる!
……
夕食後、千早は百合に部屋に呼ばれた。
「あなたと宴司はどうなっているの?離婚話をしているって聞いたわよ?半月も別居しているって?!」百合は詰問した。
千早は隠さなかった。
隠せるはずもなかった。
藤原家のあちこちにスパイがいるのだから。
「香織が戻ってきたの」千早はもちろん、責任を自分に負わせるほど愚かではなく、少し悲しげな口調で言った。
「だからこんな方法で彼を刺激しようとしているの?宴司がそんなに簡単に操れると思う?」百合は不機嫌そうに言った。
千早は黙っていた。
「もういいわ、私が生きている限り、香織のような女を藤原家に入れるつもりはないわ。あなたは帰って宴司とちゃんと暮らしなさい。いちいち理不尽に騒ぎ立てないで」
「……」だから宴司のような傲慢で自己中心的な性格は、やはり遺伝なのだ。
「宴司の子供を身ごもりなさい。それがあなたにとって何よりも効果的よ」百合は付け加えた。