深谷千早は話題を変えた。「今回帰ってきたけど、また行くの?」
「もう行かないんじゃないかな」木村冬真も断言するような口調ではなかった。
つまり、まだ躊躇いがあるということだ。
「親に無理やり帰らされたんだ。もう帰ってこないと、死んでも遺体を引き取る人がいないって言われてね」冬真は冗談めかして言った。
千早も少し笑った。
もちろん、彼の帰国が彼の言うほど気軽なものではないことは分かっていた。
そして彼が今でも自ら進んで帰ってこようとしないのは……
考えずにはいられないことがたくさんあった。
「戻ろうか」冬真は立ち直ったようだった。「このまま二人とも戻らないと、温子がまた爆発するぞ」
確かに。
彼女は頭の中で小林温子の生き生きとした姿を思い浮かべていた。
「そういえば、温子はまだ恋愛してないの?」冬真が尋ねた。
「興味あるの?」
「まさか」冬真は呆れた様子で言った。「ただ聞いただけだよ。彼女の性格だと落ち着かないと思ってね。昔、学生の頃も彼氏がいたような気がするけど、結局何もなく終わったよね」
「付き合ってたわけじゃないわ。あの頃は反抗期で、わざと両親に逆らってたのよ」千早は温子のことを知り尽くしていた。
冬真は頷いた。
温子なら何でも奇抜なことをやりかねないと思っていた。
「行こうか」
二人は一緒に部屋に戻った。
個室に入るとすぐ、ある男子の同級生が大声で言っているのが聞こえた。「お前ら、俺が今外で誰に会ったと思う?2組のあの子だよ、名前なんだっけ……そう、春野鈴音だ」
「春野鈴音?あれって……木村冬真が昔好きだった子じゃない?」ある同級生が興味津々で尋ねた。
冬真と千早が戻ってきたことに気づいていなかった。
千早は振り向いて冬真を見た。彼は無表情だった。
「かなり酔ってたよ。聞いた話じゃ、今芸能界で頑張ってるけど、全然うまくいってないらしい。見たところ枕営業でもされてるみたいだった。隣の個室に座ってた人たち、芸能界の人っぽかったし……」
話は熱く盛り上がっていた。
誰かが入口にいる千早と冬真に気づくまで。「やめろやめろ……」と慌てて合図を送った。
他の同級生たちもようやく冬真に気づいた。
場の空気が一気に気まずくなった。
しかし冬真の方から率先して言った。「久しぶりの同窓会だし、俺が一周回って乾杯するよ」