藤原宴司は唇をきつく結んでいた。
結局、出て行った。
出て行く時、わざと彼女の洗面所のドアを強く閉めた。
「バン」という音。
深谷千早はびっくりした。
この人、火薬でも食べたの?!
宴司は洗面所から出た。
病室内では、徳永颯がまだ千早のカルテを見ていた。今日彼女が病院でどんな検査を受けるのかを確認していた。
宴司が自分の側に来たのを感じ、彼はカルテを置き、振り返って軽く笑いながら言った。「久しぶりだね、宴司。」
とても自然な口調だった。
まるで古い友人同士の挨拶のように。
実際、宴司と颯は確かに昔から知り合いだった。
二人は高校の同級生で、仲も悪くなかった。
曽根真一や加藤文啓たちのように頻繁に一緒に遊ぶほどではなかったが、お互いを尊敬し合っていたため、友人と呼べる間柄だった。
ただ、その後颯が海外留学に行き、二人はプライベートでは連絡を取らなくなった。
「つい最近会ったばかりじゃないか?」宴司は冷淡に言った。
颯は少し考え、彼の家の前で会った夜のことを思い出した。
彼は言った。「確かに。」
そして特に説明を加えなかった。
宴司は一言尋ねた。「なぜここにいるんだ?」
「この病院で働いているんだ。」颯は説明した。「昨夜当直をして、今帰ろうとしていたところだ。同僚から千早が入院したと聞いたから、様子を見に来たんだ。」
彼はすでに私服に着替えていた。
「結局医者になったんだな。」
「ああ。」颯は言った。「産科医だ。」
宴司はそれ以上質問しなかった。
颯もそれ以上何も言わなかった。
静寂の中。
宴司は尋ねた。「帰るんじゃなかったのか?まだ行かないのか?」
「もう少し待って、千早が出てきたら一言声をかけてから行くつもりだ。」颯は言った。「彼女を退院させに来たのか?」
宴司は黙っていた。
態度は冷淡だった。
颯は気にする様子もなく、突然尋ねた。「『愛おしの』のネックレスを白井香織にあげたのか?」
宴司の目が少し引き締まった。
目の奥に苛立ちが湧き上がった。
「あのネックレスが千早にとってどれほど大切なものか、知っているのか?」颯は彼に尋ねた。
「彼女に補償するつもりだ。」宴司は香織からネックレスを取り戻せるかどうか確信が持てなかった。
しかし、最悪の事態に備えていた。